持病・障害がある人のためのリアル終活ガイド|治療、お金、暮らしを“自分の言葉で”決めておく

自分の終活

あのとき、言っておけばよかった

「……お母さんが、どうしてほしいか、分からないんです。」

救急外来の前で、娘さんが泣きそうな声で言います。
目の前では医師が、淡々と説明を続けます。

医師「心臓が弱っていて、このままだと危ない状態です。
強い治療を続けるかどうか、ご家族の判断が必要で……」

娘「でも、母は……どうしてほしいって、言ってたんだろう……」

お母さんは、持病もち。
何度も「つかれた」「しんどい」と言っていたのに、
「最期のこと」「治療のこと」だけは、なんとなく話題にしづらくて
先延ばしになっていました。

「もしあの時、ちゃんと聞けていたら」
娘さんはずっとそのことを胸に抱えています。

完璧じゃなくていいから、「自分の気持ち」を一言だけでも残しておく

持病がある人、障害がある人の終活で一番大事なのは、

“医学的に正しいこと”を決めることじゃなくて
“自分はどう生きたいか・どうしてほしくないか”を、ざっくり言葉にしておくこと

です。

それだけで、
「代わりに決めることになった家族・パートナー・支えてくれる人」が、
ずいぶんラクになります。

    1. 完璧じゃなくていいから、「自分の気持ち」を一言だけでも残しておく
  1. なぜ「持病・障害がある人の終活」は、こころの準備が大事なのか
    1. 「普通の生活」と「もしもの場面」が、いつも隣り合っているから
  2. 医療・ケアについて──「ここまでは頑張りたい」「ここから先はいい」を決める
    1. ベッドサイドでの会話を、頭の中で一度シミュレーションしてみる
    2. 「よく分からない」でもいい。方向性だけ決めておく
  3. お金と手続き──「生活を守るための情報」をまとめておく
    1. 通帳・カードを全部出して、友だちに説明するつもりで
    2. 制度の名前だけでも書いておくと、将来の自分が助かる
  4. 暮らし方・住まい──「本当はどうしたい?」を一度だけ真面目に考える
    1. 「今の家での暮らし」を、ちょっと冷静に眺めてみる
    2. 「譲れない条件」を一つだけ選ぶ
  5. 誰に相談し、どこに頼るか──「一人で抱え込まない前提」を作る
    1. 相談先リストを、未来の自分にプレゼントする
    2. 家族以外で、信頼できる人を一人だけ決める
  6. 自分の気持ち・価値観──「たった一枚の手紙」が残せるもの
    1. 「こういうのは嫌だ」「これだけは守ってほしい」を一行ずつ
    2. 「ありがとう」と「ごめんね」を、少しだけ前倒しで
  7. 今日からできる“超ミニ一歩” 3つ
    1. 最後に

なぜ「持病・障害がある人の終活」は、こころの準備が大事なのか

「普通の生活」と「もしもの場面」が、いつも隣り合っているから

ミホさん(52歳)は、心臓の持病あり。
平日は仕事、休日は友だちとカフェに行く。
一見“普通の生活”だけど、薬は毎日欠かせません。

ある日、主治医にこう言われます。

医師「今はコントロールできていますが、
将来、急に悪くなる可能性もゼロではありません。
もしものとき、どういう治療を望まれるか、
少しずつ考えておいてもいいかもしれませんね。」

そう言われても、
ミホさんは家に帰ると、つい考えるのをやめてしまいます。

ミホ(心の声)
「まだ元気だし、今決めなくてもいいよね。
だって、縁起でもないし……。」

――でも、「もしも」は、ある日突然やってきます。

だからこそ、
元気なうちに、“ちょっとだけ先の自分”のことを考えておく終活が必要になります。

医療・ケアについて──「ここまでは頑張りたい」「ここから先はいい」を決める

ベッドサイドでの会話を、頭の中で一度シミュレーションしてみる

医師「万が一、心臓や呼吸が止まったとき、
強い心臓マッサージや機械を使う治療を続けますか?」

家族「……。」

この沈黙を、少しでも軽くしてあげられるのは自分だけです。

たとえば、ノートにこんなふうに書いておくイメージです。

「元の生活に戻れる見込みがあるなら、できるだけ治療してほしい。」
「寝たきりで意識が戻らない状態で生き長らえるための治療は、望みません。」
「痛みや苦しみを取る治療を優先してほしいです。」

これを見た家族は、きっとこう思います。

家族「お母さん、ちゃんと考えてくれてたんだ。
それなら、この方向で先生と話そう。」

「よく分からない」でもいい。方向性だけ決めておく

「医学用語も分からないのに、私が決めていいの?」
そう感じるかもしれません。

でも、全部決める必要はありません。

  • 「長く生きること」より、「苦しみを減らすこと」を優先してほしい
  • 「できるだけ元気に戻れる見込みがあるなら、頑張って治療してほしい」

こんな“ざっくりした方向性”だけでも、すごく大きなヒントになります。

お金と手続き──「生活を守るための情報」をまとめておく

通帳・カードを全部出して、友だちに説明するつもりで

ある日、信頼している友人にこう言う場面を想像してみてください。

あなた「もし私が倒れたら、この通帳が“生活費用”、
こっちは“貯金用”って、家族に伝えてほしいんだ。」

そのときに、

  • どの口座がメインの生活費用か
  • どのカードがどんな支払いに使われているか
  • どんな保険に入っているか

が、自分の中でも整理されていると安心です。

ポイント

  • ぜんぶ完璧に書かなくてOK
  • 「メイン口座」「よく使うカード」からで充分
  • 保険は「会社名・保険の種類・保険金をもらう人」だけでも書いておく

制度の名前だけでも書いておくと、将来の自分が助かる

あなた「障害年金をもらっていて、更新は◯年◯月。
窓口は◯◯年金事務所。
介護保険の担当は△△さんっていうケアマネさん。」

これくらいのメモがあるだけで、
もし自分が動けなくなっても、誰かが手続きをつないでくれます。

暮らし方・住まい──「本当はどうしたい?」を一度だけ真面目に考える

「今の家での暮らし」を、ちょっと冷静に眺めてみる

  • 階段がきつくなってきた
  • お風呂で転びそうになったことがある
  • 夜、トイレに行くのが怖い

こういう小さな困りごとは、
「慣れてしまっているだけ」で、実はSOSかもしれません。

友人「最近、階段しんどそうだけど大丈夫?」
あなた「まあ何とか。…でも、いつまでここで暮らせるかなって、たまに考える。」

この“たまに考える”を、ノートに一度ちゃんと書き出すのが終活です。

「譲れない条件」を一つだけ選ぶ

  • できれば、自宅で、自分の好きなものに囲まれて暮らしたい
  • ペットと一緒にいられる場所がいい
  • 家族と同じ屋根の下で暮らすことを優先したい

全部を叶えるのは難しくても、
「これだけは大事にしたい」軸が1つあると、住まいの選択がブレにくくなります。

誰に相談し、どこに頼るか──「一人で抱え込まない前提」を作る

相談先リストを、未来の自分にプレゼントする

あなた「困ったら、まずここに電話して、って書いておくね。」

紙に、こんなふうにまとめてみます。

  • かかりつけ医・病院(名前・電話番号)
  • ケアマネさん、相談支援専門員さん
  • 行政の窓口(障害福祉・介護保険など)
  • 必要なら、弁護士・社労士・司法書士など

これは、
「未来の自分」と「家族・パートナー」に渡す“地図”です。

家族以外で、信頼できる人を一人だけ決める

  • 何でも話せる友人
  • 同じ病気・同じ障害の仲間
  • 昔からお世話になっている人

あなた「もしものとき、家族が行き詰まったら、
あなたにも相談していい? って家族に伝えておくね。」

こういう“第三の人”がいるだけで、
家族も「全部自分たちだけで抱え込まなくていい」と思えるようになります。

自分の気持ち・価値観──「たった一枚の手紙」が残せるもの

「こういうのは嫌だ」「これだけは守ってほしい」を一行ずつ

ノートを一枚開いて、
こんなふうに書いてみるイメージです。

  • 長く苦しむためだけの延命治療は、望みません。
  • 痛みや苦しみをしっかり取る治療を優先してほしいです。
  • 家族に必要以上の負担や、罪悪感を背負わせたくありません。

完璧な文章じゃなくていい。
誤字があってもいい。

でも、その一枚が、
大事な場面で家族の背中をそっと支える“手紙”になります。

ノートの書き方や、「何を書けば十分なのか」「逆に、書かなくていいこと」は、
エンディングノートとは?目的・書く内容・遺言との違いをやさしく解説
も道しるべになると思います。

「ありがとう」と「ごめんね」を、少しだけ前倒しで

  • 送り迎えをしてくれる家族に
  • 毎回、診察で話を聞いてくれる先生に
  • いつもLINEで心配してくれる友達に

あなた「いつもありがとう。ほんと助かってる。」

たった一言でも、
言われた側はずっと覚えていて、
もしものときにも、あなたの味方でいようとしてくれます。

今日からできる“超ミニ一歩” 3つ

「ここまで読んだけど、正直、ちょっと怖いし面倒くさい…」
そんな気持ちがあって当然です。

なので、いきなり全部じゃなくてOK。
今日からできることを、1つだけ選ぶイメージで。

  1. 通院の帰りに、主治医に一言だけ聞いてみる 「先生、もしものときって、どんな治療の選択肢があるんですか?」
  2. ノート1ページに、“これだけは嫌だ”を1つだけ書く 「痛みで苦しみ続けるのは嫌です。」
    これだけでも、立派な“自分の意思表示”です。
  3. 誰か1人に、「もしものとき、相談してもいい?」と言ってみる
    家族でも、友達でも、支援者でも。
    その一言で、あなたはもう「一人で抱え込まない終活」を始められています。

「もっとゆるく、終活の最初の一歩だけ知りたい」というときは、
3つの超基本に絞った
終活は何から始める?今日からできる最初の3ステップ
を先によんでから、このページに戻ってきても大丈夫です。

最後に

終活って聞くと、「死ぬ準備」のイメージが強いかもしれません。
でも、持病や障害がある人にとっての終活は、

「これからを、少しでも自分らしく生き切るための準備」

でもあります。

  • 自分のため
  • 大事な人たちのため

どちらのためにも、
完璧じゃなくていいから、「今の気持ち」を少しだけ言葉にして残してみる。

それだけで、未来はけっこう変わってきます。

自分のこれからを、もう少し全体から整理したくなったときは、
終活の全体マップとチェックリストをまとめた
自分の終活|今から備える10の準備【チェックリスト付き】
も、そっと開いてみてください。

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