通院・受診を嫌がる親への向き合い方|“説得”ではなく“合意”を目指す5ステップ

介護・医療

もしかして今、

  • 「病院なんて行かなくていい」
  • 「ほっといてくれ」
  • 「大げさだなあ、放っておいても治るよ」

そんなふうに言う親に、どうしたらいいのか分からず、胸がざわついていませんか。

体の不調が心配なのに、親が通院や受診を嫌がると、子どもとしては本当に困りますよね。
心配だからこそ強く言ってしまい、ケンカになってしまうこともあると思います。

このページは、

  • 親の体調が心配だけど、病院の話を出すと空気が悪くなる
  • 何度「病院に行って」と言っても、聞き流されてしまう
  • ちゃんと説得できない自分が、だんだん嫌になってきた

そんなあなたに向けて書いています。

ここでお伝えしたいのは、

親を「なんとか説得する」
のではなく、
親と「一緒に決める」

というスタンスで向き合う、ということです。

通院や受診の話は、どうしてもぶつかりやすいテーマですが、
少し視点を変えるだけで、親との会話がやわらぐことがあります。

よかったら、深呼吸をひとつしてから、読み進めてみてくださいね。

結論:親を「説得」するのではなく、「一緒に決める」

通院を嫌がる親に対しては、

  • 正論で押し切って「連れていく」
  • 怖がらせて「動かす」

よりも、

  • 親の「イヤな理由」をていねいに聞き取りながら
  • 危なくならないための「最低限のライン」を一緒に決めていく

という「合意づくり」のほうが、結果的にうまくいきやすくなります。

ここで言う「合意」とは、

  • 親の気持ちも大事にしながら
  • でも、大きなトラブルを防ぐために
  • これだけは一緒に守ろうね、というラインを決めること

です。

そのために、まずは「なぜ親は通院を嫌がるのか」を知るところから始めてみましょう。

なぜ親は通院・受診を嫌がるのか

病院は「弱い自分を認める場所」だから怖い

高齢の親にとって、病院は

  • 「歳を取った自分」を突きつけられる場所
  • 「昔のようには戻れない」と痛感する場所

でもあります。

だから、

  • 「病院行きなさい!」
  • 「ほら、また数値が悪くなるよ!」

と正論で押されると、心のどこかで「負けた気」がして、余計に身構えてしまいやすいのです。

「めんどくさい」「疲れる」が本音のことも多い

  • 朝早くから並ぶ
  • 長時間待たされる
  • 何度も同じ検査をされる

こうした負担を、「しんどい」「めんどくさい」と感じていても、親はうまく言葉にできないことがあります。

その結果、

「大丈夫、大したことない」
「ほっといてくれ」

といった “ごまかしの言葉” で、なんとか話を終わらせようとしてしまうのです。

子どもとの力関係も影響している

親から見れば、子どもはいつまでも「子ども」です。

  • 我が子に命令されるのは、プライドが傷つく
  • 「言うことを聞かされている」と感じると、意地でも拒否したくなる

そんな気持ちが働くこともあります。

だからこそ、

「正しいことを言っているはずなのに、なぜか通じない」

という状況が生まれやすいのです。

NG対応:ついやってしまいがちだけど逆効果な言動

ここからは、つい言ってしまいがちだけれど、親の心をかたくしてしまいやすい言動を整理してみます。

いきなり結論から責める

「もういい加減、病院行ってよ!」
「行かないなら、何かあっても知らないからね!」

こうした言葉は、親からすると「責められた」「否定された」と感じやすく、
その瞬間に防衛モードへと切り替わってしまいます。

そのあとの話は、ほとんど耳に入っていない…ということも少なくありません。

「怖がらせて」動かそうとする

「このままだと倒れるよ」
「がんだったらどうするの?」

恐怖で行動できる人もいますが、高齢になってくると、

  • 「もう歳だし、どうなってもいい」
  • 「今さら言われても…」

と、あきらめモードに入ってしまうこともよくあります。

医療者を“脅し役”として使う

「お医者さんに怒られるよ!」
「先生が、ちゃんと来ないとダメって言ってたよ!」

親からすると、

「子ども + 医者」 VS 「自分」

という構図になり、「自分の味方が誰もいない」と感じてしまいます。

医療者は、「怒る人」ではなく、「一緒に考えてくれる第三者」として関わってもらえると理想的です。

「説得」ではなく「合意」を目指す5ステップ

ここからは、「親と一緒に決める」ための具体的なステップを見ていきます。

ステップ1:まずは“理由”を聞き切る

いきなり「行こう」ではなく、先に「なぜ行きたくないのか」を聞きます。

「病院、あんまり行きたくなさそうだけど、
何が一番イヤ?」

と、こちらから選択肢を出さずに問いかけてみましょう。

よく出てくる理由の例:

  • 待ち時間が長くて疲れる
  • 痛い検査がイヤ
  • 医者が怖い・相性が悪い
  • お金が心配
  • 「歳だから仕方ない」と思っている

この段階では、反論はグッと飲み込んで、とにかく聞くことに集中します。

ステップ2:気持ちを「言葉で」受け止める

理由を聞いたあとは、すぐに「でもね」と言いたくなりますが、いったんストップします。

  • 「長く待たされるの、本当にしんどいよね」
  • 「あの先生、ちょっと怖いよね。私もそう思った」
  • 「お金のこと、心配だよね。私も一緒に考えるよ」

など、相手の言葉をそのまま繰り返しながら、短く一言添えてみてください。

「分かってもらえた」と感じてもらうことが、次のステップの土台になります。

ステップ3:リスクと「もしも」を静かに共有する

気持ちを受け止めたうえで、「行かない場合のリスク」を淡々と伝えます。

「病院イヤなの、分かるよ。
ただ、このまま様子見してて、もし倒れたときに
救急車で運ばれて、知らない病院でバタバタするのは、私は心配なんだ」

ここで大事なのは、

  • 親を「責める言い方」ではなく
  • 自分の「心配」を正直に伝えること

です。

ステップ4:こちらの「希望ライン」を伝える

ここで初めて、自分の希望を具体的に伝えます。

「私としては、せめて○ヶ月に1回だけでも診てもらえたら安心なんだけど、どうかな?」

「全部しっかり検査してほしい、とは言わないから、
今日は“血圧と薬の確認だけ”でも診てもらえないかな?」

100点満点の通院を求めるのではなく、最低限のラインを一緒に探るイメージです。

ステップ5:親に「選択できる余地」を残す

親にとって、「自分で決められている感覚」はとても大切です。

  • 病院を2つ提案して、どちらに行くかを選んでもらう
  • 日にちを2〜3案出して選んでもらう
  • 「今日は話だけ聞きに行く日」にして、ハードルを下げる

など、「決める権利」を親に残す工夫をしてみましょう。

「AとBの病院があるんだけど、お母さんはどっちが良さそう?」
「今週だと木曜と土曜なら一緒に行けるけど、どっちがマシ?」

といった聞き方も使えます。

状況別・声かけの具体例

ここからは、よくある状況ごとの「声かけの例」を紹介します。
「自分の家族なら、どのケースが近いかな」と想像しながら読んでみてくださいね。

ケース1:慢性病の定期受診をサボりがちな親

「この前、薬が切れそうになってたよね。
病院イヤなのは分かるんだけど、
お父さんが倒れちゃうと、私も仕事休んでバタバタになっちゃうから、
せめて“薬をもらうだけの日”ってことで、一緒に行かない?」

  • 「倒れたら困るから」だけでなく、
  • 「あなたを大事に思っている」という気持ちもセットで伝える

のがポイントです。

ケース2:明らかに様子がおかしいのに「大丈夫」と言い張る親

「この頃、前よりしんどそうに見えるから、私は心配なんだ。
本当に大丈夫ならそれでいいんだけど、
一回だけ先生に“今の状態を確かめてもらう日”をつくれたら、
お互い少し安心できないかな?」

「病名をつけてもらう」のではなく、
「安心のために確かめる」という言い方にすると、ハードルが下がります。

ケース3:認知症が疑われるが、受診を強く拒否する

認知症の受診は、とくに抵抗が強くなりがちです。

この場合は、

  1. まずはかかりつけ医に相談し
  2. そこから専門医につないでもらう

というルートの方が、受け入れられやすいことが多いです。

「最近、ちょっと物忘れが増えた気がして、私は心配してる。
でも、〇〇さん(いつもの先生)が
『歳を取るとこういうこともある』って言ってくれるだけでも、
少し安心できると思うんだ。
いつもの先生に、“最近の様子”を一回見てもらえないかな?」

介護保険や相談先の全体像については、
初めての介護保険・要介護認定の取り方入門
で整理していますので、あわせて参考にしてみてください。

ケース4:一人暮らしで、生活も心配な親

  • 食事が偏っている
  • 転倒しそうな様子がある
  • 服薬管理も怪しい

といった場合、病院だけにこだわらず、地域の支援につなぐことも大切です。

「お母さんのこと、私一人だといろいろ心配で…。
近くに“相談できるところ”があるみたいだから、一緒に話だけ聞きに行かない?」

ここでいう「相談できるところ」が、地域包括支援センターやケアマネジャーです。

遠距離でなかなか帰れないときは、
遠距離介護の始め方|月1回しか帰れなくても「できること」と「やらなくていいこと」
も一緒に読んでおくと、少し見通しが持ちやすくなります。

それでも動いてくれないときの考え方と相談先

どれだけていねいに向き合っても、すぐには動いてくれないことも多いです。

そのときに一番危ないのは、

「私がちゃんと説得できないからだ」

と、自分を責めすぎてしまうことです。

「できること」と「できないこと」を分ける

  • 親の人生の最後まで、すべてをコントロールすることはできない
  • 子どもにできるのは、「情報を伝え」「選択肢を示し」「一緒に考える」ところまで

という線引きをしておくと、少し肩の力が抜けます。

第三者をうまく使う

  • かかりつけ医
  • 看護師さん
  • ケアマネジャー
  • 地域包括支援センター

といった第三者からの一言は、家族よりもスッと届くことがあります。

「私が言っても聞いてくれないので、
こういうことを先生からも一言伝えてもらえませんか?」

と、「伝えてほしいポイント」を具体的にお願いしてみましょう。

こちらが潰れてしまわないようにする

親の受診問題は、どうしても長期戦になりがちです。

  • すべてを完璧にしようとしない
  • 無理なときは「今日はこれ以上は話さない」と一旦引く
  • 自分の休息・仕事・趣味を守る

など、「自分を守るライン」を決めておくことも、とても大切です。

介護そのものがしんどくなってきたと感じたら、
介護で心が折れそうなあなたへ|“介護うつ”になる前にできる7つのこと
も、あとで落ち着いたときにそっと開いてみてください。

まとめ:小さな“合意”を積み重ねていけばいい

最後に、この記事のポイントをあらためてまとめます。

  • 親の通院・受診拒否は、「説得すればなんとかなる」テーマではない
  • 親の気持ち・怖さ・しんどさを聞き取り、「安全ライン」を一緒に探すことが大事
  • 100点満点ではなく、「これだけは守ろう」という最低限のラインで合意を目指す
  • うまくいかないときは、医療者や地域の支援、第三者の力も遠慮なく借りる
  • それでも動いてくれないとき、「自分がダメだから」と責めすぎない

親の体を守ることと、
自分の心と生活を守ること。

どちらも大切にしながら、
「説得」ではなく「合意づくり」を意識して、
できる一歩から始めていければ大丈夫です。

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