「親の介護が必要になってきた。でも、パートナーや子どもにどう話したらいいか分からない……。」
自分の親のことだからと、つい一人で抱え込んでしまいがちですが、実際には「時間・お金・気持ち」の面で、家族全体に影響が出てきます。
そのことをうまく共有できないと、
- 「また実家に行くの?」
- 「うちの家計は大丈夫なの?」
- 「なんでママ(パパ)ばっかりイライラしてるの?」
と、家庭の中がギスギスしてしまうことも少なくありません。
この記事では、「自分の親の介護」を、配偶者・子どもにどう説明し、家族みんなの心と暮らしを守るかを、具体的な声かけ例と一緒にまとめました。
結論:介護は「一人の問題」ではなく「家族プロジェクト」にする
結論から言うと、親の介護は「自分だけの問題」として抱え込まないほうがいいです。
最初から、“家族のプロジェクト”として共有しておくことが、家庭がギスギスしない一番のポイントです。
なぜなら、
- あなたの時間・体力・気力が削られると、家庭内の余裕も減ってしまう
- 実家への交通費・親の支出など、家計にも影響が出てくる
- あなた自身が「分かってもらえない」と感じると、
不満やイライラが配偶者・子どもに向きやすくなる
からです。
つまり、「親の介護」はどうしても家の中に波紋を広げます。
だからこそ、最初から
「これは、家族みんなで乗り越えていく長期戦なんだ」
という前提を家族と共有しておくことが大切です。
言い方の例
- ×「お母さん(お父さん)のことは私の問題だから、あなたたちは気にしないで」
- ○「お母さんのこと、これから少しずつ介護が必要になりそう。
私一人では無理だから、家族の問題として一緒に考えてほしい」
なぜ家庭がギスギスしやすいのか? 4つの理由

家庭がギスギスするのは、「誰かが悪いから」ではありません。
構造的にぶつかりやすい条件が揃っているからです。
(1) 時間の奪い合いが起きる
- 実家への帰省・病院付き添い・役所手続きで、休日や仕事後の時間が削られる
- 家事・育児との両立が難しくなり、
- 「また出かけるの?」(配偶者)
- 「なんでうちの予定は後回しなの?」(子ども)
となりやすい
(2) お金への漠然とした不安
- 交通費・お見舞い・親の生活費補填・介護サービスの自己負担などが増える
- 「今後どれくらいかかるのか」が見えないため、家計への不安がわきやすい
(3) 「血のつながり」の温度差
- 自分にとっては「親」でも、配偶者にとっては「義理の親」
- 「親孝行したい」気持ちが強いほど、
- 自分:もっとやりたい
- 配偶者:そこまでしなくても…
と、温度差が出やすい
(4) 感情の疲れがうまく言語化できない
- 心配・罪悪感・焦り・怒り・悲しみ…いろんな感情が混ざる
- うまく言葉にできないまま、一番近い人(配偶者・子ども)にイライラが向かう
「わかってくれない家族が悪い」のではなく、
最初からギスギスしやすい条件が揃っている、という前提に立つと、
「どう説明したら伝わるかな?」
と、コミュニケーションの工夫に意識を向けやすくなります。
配偶者への伝え方:事実 → 気持ち → お願い の3ステップ
配偶者には、
「事実」→「自分の気持ち」→「具体的なお願い」
の順で伝えると、感情的なぶつかり合いを減らしやすくなります。
ステップ1:事実を短く・具体的に伝える
まずは、「何が起きているのか」という状況の共有から。
例)
「最近、お母さんの物忘れがかなり増えてきて、
一人での生活が少し不安になってきたみたい。」「先週、病院で検査をしてもらったら、
介護保険の認定を受けることになりそうって言われた。」
ここでは、まだ感情や主張は控えめに。
「何が起きているか」を一緒に眺めるイメージです。
ステップ2:自分の気持ちと葛藤を正直に伝える
次に、「自分はどう感じているか」を共有します。
ポイントは、
- 「あなたが○○だからツラい」と責めない
- 「私はこう感じている」と、自分主語で話す こと。
例)
「正直、お母さんのことが心配で、
何かあったらどうしようって、ここ最近ずっと気になってる。」「でも、そのせいで、あなたや子どもたちとの時間が減っちゃうのも嫌で…。
どうしたらいいか分からなくて、ずっとモヤモヤしてた。」
「どうしてほしい」より前に、“揺れている気持ち”を見せることで、
配偶者も「一緒に考えよう」というモードに入りやすくなります。
ステップ3:具体的な「お願い」を一つか二つに絞る
最後に、具体的に手伝ってほしいこと・理解してほしいことを伝えます。
NG例
- 「もっと分かってよ」
- 「全部任せるからよろしく」
これは、「で、何をどうすればいいの?」と、受け手が困ってしまいます。
OK例
「月に1回だけでいいから、
土曜の半日を実家に行く時間として確保させてほしい。」「交通費がかかるから、家計から毎月1万円だけ、
親のところへの費用として使わせてほしい。」「疲れて帰ってきた日に、家事を全部こなすのがしんどいから、
ゴミ捨てとお風呂掃除だけ、あなたにお願いしてもいい?」
この3つを順番に伝えることで、配偶者も状況を理解しやすくなり、
「なんか急に実家にばかり…」という不満を減らしていけます。
職場への伝え方も含めて整理したいときは、
「仕事と介護の両立が不安なあなたへ|会社への伝え方&介護休業・介護休暇の基本」
もあわせて読んでみてください。
お金の話は「数字+ルール」で最初に共有しておく

お金の話は後回しにせず、早い段階で「ざっくり数字」と「家計のルール」を決めておくことで、後々の不満やトラブルを減らせます。
なぜ先延ばしは危険?
- なんとなく「親に送金」「交通費をカードで」などを続けると、
後から配偶者が明細を見てびっくりする - 「なんで相談してくれなかったの?」という信頼の傷になることも
共有しておきたい3つのポイント
- 今の時点で分かっている費用
- 月の交通費の目安
- 親の生活費の補助額
- 病院代・薬代の自己負担 など
- 「どこから出すか」のルール
- 家計から出すのか
- 自分の小遣いからなのか
- 親の年金・貯金からが基本で、不足分だけ補うのか
- 「無理をしないライン」を決めておく
- 「毎月の支援は○万円まで」
- 「ボーナスからはここまでならOK」
- 「このラインを超える話は、必ず夫婦で相談してからにする」
伝え方の例
「お母さんのことで、今後お金も多少はかかりそうだから、
先にざっくりだけでも一緒に確認しておきたい。」「今のところ、
・交通費で月だいたい○円
・病院代の自己負担が○円くらい
になりそう。」「うちの家計に無理がないレベルで、
●●円までは家計から、
それ以上は一度相談する、っていうルールにしない?」
子どもへの伝え方:年齢別のポイントと声かけ例

子どもには、年齢に合わせて「何が起きているのか」「親としてどう考えているか」を簡単な言葉で伝えることが大切です。
「隠す」よりも、「ちゃんと説明する」ほうが、子どもの不安は小さくなりやすいです。
小学生くらいまで
- 難しい病名や制度の話は不要
- 「おばあちゃん(おじいちゃん)の体が前より弱くなってきた」くらいの説明でOK
声かけ例
「最近ね、おばあちゃんの足腰が前より弱くなってきて、
一人で暮らすのがちょっと大変になってるんだ。」「だから、ママ(パパ)が前より少しだけ、おばあちゃんのところに行くことが増えると思う。」
「でも、あなたのことも同じくらい大事だからね。
もし寂しいって思ったときは、ちゃんと言ってほしいな。」
中学生〜高校生
- 「家計」や「親の感情」についても少し踏み込んで話せる年齢
- 親がイライラしている理由を、「話して分かる相手」として扱う
声かけ例
「おばあちゃんの介護のことで、少し真面目な話をしてもいい?」
「これから、ママ(パパ)が実家に行く回数が増えたり、
家計からも少しお金が出ることになると思う。」「正直、私もいろいろ不安で、疲れてイライラしちゃう日が増えるかもしれない。
でも、それはあなたに怒っているわけじゃないってことだけは、ちゃんと覚えておいてほしい。」
大学生・社会人の子ども
- ある程度「自分の家族の一員として」一緒に考えてもらう
- 将来、自分にも起こりうることとして共有する
声かけ例
「おばあちゃんの介護のことで、家族として一緒に考えてほしいことがある。」
「今は私が中心に動くつもりだけれど、
あなたにも、心の準備として知っておいてもらえたら安心かなと思って。」
子どもに全部を背負わせる必要はありませんが、
「親がなぜ忙しくしているのか」「なぜ時々イライラしているのか」を共有しておくことで、
子どもも「自分のせいではない」と安心することができます。
家族で決めておきたい「線」と「ルール」

家庭がギスギスしないためには、
あらかじめ「ここまでやる」「ここからは無理」の線を家族で共有しておくことが大切です。
決めておきたい「線」の例
- 「同居はする/しない」
- 「誰かが仕事を辞めてまで介護するかどうか」
- 「子どもたちの教育費は最優先に守る」
- 「家族旅行など“我慢しない”イベントを最低限いくつ残すか」
家族ルールの例
- 「親のことで大きな決断をするときは、必ず夫婦で話し合う」
- 「実家に行く日程は、できるだけ月初にカレンダーで共有する」
- 「疲れている日は“イライラ宣言”をして、家事は最低限にする」
家族会議の切り出し方
「お母さん(お父さん)の介護のことで、これから先、
うちの家族としてどこまでやるか、一度ちゃんと話しておきたい。」「全部を完璧にしようとすると、私も、あなたも、子どもたちも潰れてしまうと思うから、
“守りたいもの”と“無理しないライン”を一緒に決めたい。」在宅でどこまで頑張るか、施設も選択肢に入れるかで揺れている場合は、
「在宅介護か施設か迷ったら|後悔しないための考え方」も、
家族で“線を引く”ときのヒントになります。
どうしても分かってもらえないときの対処法
どれだけ丁寧に説明しても、価値観や環境の違いから、どうしても分かり合えないこともあります。
そのときは、「二人だけ」で抱え込まず、第三者やサービスを味方につけることも考えてみてください。
使える相談先・味方
- 地域包括支援センター
- ケアマネジャー
- 病院の医療ソーシャルワーカー
- 親族で比較的話が分かる人
- 心理カウンセラー など
こんな言い方もアリ
「私自身もどうしたらいいか分からない部分があるから、
一度、専門の人に相談してみてもいい?」「あなたとケンカしたいわけじゃなくて、
第三者の意見を聞いて、私たち夫婦の負担を軽くする方法がないか探してみたい。」
「分かってもらえない自分」を責め過ぎない
- 配偶者にも配偶者なりの不安や疲れがある
- 生い立ちや親子関係が違えば、「親への向き合い方」も違って当然
理解してもらえない時は、「私の伝え方が悪い」「愛されていない」と自分を責めるのではなく、
「これは、夫婦だけで解決するには重いテーマなんだ」
と捉えて、外部の力を借りる選択肢も持っておきましょう。
まとめ:完璧な理解より「少しずつ伝え続ける」が大事
最後に、この記事のポイントをもう一度まとめます。
- 親の介護は、「自分の問題」ではなく、最初から家族のプロジェクトとして共有する
- 家庭がギスギスしやすいのは、「時間・お金・血のつながり・感情」の問題が重なる構造上の問題
- 配偶者には
- 事実
- 自分の気持ち
- 具体的なお願い
の3ステップで伝えると、すれ違いが減りやすい
- お金の話は、「数字+ルール」を早めに決めておくことで、後々の不満を防げる
- 子どもには、年齢に合わせた言葉で、「何が起きていて、あなたのことも大事に思っている」ことを伝える
- 家族で「ここまではやる」「ここからは無理」の線を共有することで、罪悪感と疲弊を減らせる
- どうしても分かり合えない部分は、夫婦だけで抱え込まず、第三者やサービスに頼ってOK
親の介護は、どうしても長期戦になりがちです。
最初から完璧に理解し合える家族のほうが、むしろ少ないと思います。
だからこそ、
「少しずつ状況を共有していく」
「気持ちを言葉にして伝え続ける」
この積み重ねが、家庭を守りながら親の介護と向き合うための、一番の土台になります。


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