親の物忘れが増えてきたり、認知症の診断を受けたりすると、
- 詐欺や悪質商法に巻き込まれないか
- 通帳やカードをなくしたりしないか
- 家族が立て替えたお金を、あとから「勝手に使った」と言われないか
こんな不安が一気に押し寄せてきます。
お金のことは「見えない」「記録がない」ことで、トラブルや誤解が生まれやすい分野です。
この記事では、家族ができる現実的な対策を、ステップごとに整理していきます。
※この記事は日本の制度を前提にした一般的な情報です。
実際の手続きは、金融機関・地域・家族の状況によって異なります。
くわしい判断は、銀行・地域包括支援センター・弁護士・司法書士などにも相談しながら進めてください。
なぜ認知症になると“お金トラブル”が起きやすいのか
契約やお金の出し入れに「判断能力」が関わってくるから
認知症などで判断する力が落ちてくると、
- 銀行の窓口での手続き
- 不動産の売買や賃貸契約
- 高額商品の購入や投資
などが、「本人の意思に基づいて行った契約と言えるか?」という問題になります。
このときに出てくるのが成年後見制度です。
本人の財産を守るための大切な制度ですが、
- 申し立てから開始まで時間と手間がかかる
- 専門職が後見人になると報酬が必要になる
- 家族の“使い勝手”としては正直ラクとは言いづらい
という面もあります。
成年後見や任意後見の基本的な考え方は
👉 親のお金を“勝手に使わないために”|通帳管理・立て替え精算・成年後見の基礎ルール
で、もう少し深く整理しています。
何の準備もないまま認知症が進んでしまうと、
家族も本人も「どう動けばいいのか分からない」と困りやすいのは、このためです。

認知症の高齢者は“ターゲットにされやすいから”
物忘れや判断力の低下がある高齢者は、
- 電話でのセールスや投資の勧誘
- 突然の訪問販売
- ネットやカタログを通じた高額商品の購入
など、消費者トラブルに巻き込まれやすいと言われています。
家族が「お金の出入り」を把握していないと、
- 気づいたときにはすでに大きな金額になっていた
- そもそも何に使ったのか本人も覚えていない
といったことが起こりがちです。
「親のお金」と「家族のお金」がごちゃ混ぜになりやすいから
親の介護や通院を支える中で、
- 親名義の口座から生活費や介護費を引き出して支払う
- 子どもがいったん立て替えて、あとで親の口座から戻す
といったことはよくあります。
ところが、ここに記録が残っていないと、
- 「そのお金、本当にお母さんのために使ったの?」
- 「きょうだいよりも多くもらってない?」
と疑われたり、相続のときに説明に困ったりしやすくなります。
ステップ1:まず“お金の全体像”を一緒に見える化する
完璧じゃなくていいので、「どこに何があるか」を書き出す
最初から100%を目指すと、しんどくて進みません。
まずは、おおまかなところからでOKです。
例として、こんな項目を書き出してみます。
- 使っている銀行口座(銀行名・支店名・ざっくり用途)
- 年金・その他の収入(どこから、だいたいいくら)
- 公共料金・家賃・保険料などの引き落とし先
- 生命保険・医療保険・共済・積立など
- 投資信託・株式などの有価証券
- クレジットカード・キャッシュカードの種類
全部を一気に埋めようとせず、
「今日は銀行口座だけ」「次回は保険だけ」のように、少しずつ進めていくイメージが現実的です。
親が元気なうちに話しておきたいお金の全体像は
👉 親が元気なうちにしておくべきお金と手続きのこと
で、別の角度からもまとめています。

「日常の出入り」と「まとまったお金」を分けて考える
書き出すときは、
- 日常生活に必要な口座(生活費・光熱費・病院代 など)
- 将来の入院・施設費に備えた貯金や保険
を分けておくと、のちの管理や説明がとてもラクになります。
ステップ2:日常の支払いについて“家族のルール”を決める
誰が何をどこまで手伝うか
たとえば、こんな分け方があります。
- 親:
- ふだんの買い物
- 少額の現金の管理
- 子ども:
- 通帳・記帳
- 介護サービスの利用料などまとまった支払い
- ネットバンキングの操作サポート
大事なのは、親の「できる部分」はできるだけ残すこと。
全部取り上げてしまうと、本人の自尊心ややる気を大きく損ねてしまいます。
「記録を残す仕組み」をシンプルに作る
親の口座からお金を出して使うときは、
- ノートや手帳に「日付・金額・使い道」をメモ
- レシートや領収書を1か所のファイルにまとめて保管
- 家計簿アプリを家族で共有してもOK
など、あとから説明できる形を作っておくと安心です。
「面倒だな…」と思うかもしれませんが、
のちのち、きょうだいに説明するとき・専門家に相談するときに、
この記録が家族を守る“証拠”にもなります。
ステップ3:銀行などでできる“事前の手当て”を検討する
代理人カード・代理人届という選択肢
銀行によっては、
- 親の口座に「家族を代理人として登録する」
- 代理人用キャッシュカードを発行してもらう
といった仕組みを用意しているところもあります。
ただし、
- そもそも扱っていない銀行もある
- 認知症が進んだ段階では利用を断られる場合もある
など、取り扱いがかなりバラバラです。
ここは実際に利用している銀行に直接確認するのがいちばん確実です。
引き落とし・カードの整理をしておく
認知症が進んでから口座が動かしづらくなると、お金の流れが一気に詰まります。
それを防ぐ意味でも、次のような整理が役に立ちます。
- 公共料金・家賃などは、できるだけ自動引き落としにまとめる
- クレジットカードの枚数を絞り、引き落とし口座も限定する
- ほとんど使っていない口座やカードは、元気なうちに整理しておく
「どこの口座から、何のお金が出ているのか」が分かるようになるだけでも、
家族の不安はぐっと減ります。

ステップ4:公的サービスや専門家の仕組みを味方につける
社会福祉協議会の「日常生活自立支援事業」
判断能力に不安のある高齢者などを対象に、各地の社会福祉協議会が行っているのが
日常生活自立支援事業です。
内容のイメージとしては、
- 福祉サービスの利用手続きのお手伝い
- 公共料金・家賃・医療費・施設利用料などの支払い支援
- 通帳・印鑑・公的書類の預かり
など、「日常生活のお金まわり」をサポートしてくれるしくみです。
- 利用料は1時間あたりの定額(生活保護受給者は無料などのケースあり)
- 各自治体によって、細かな内容は違います
遠距離介護や、ひとり親の見守りなどで心配がある場合は、
一度、地域の社協(社会福祉協議会)に相談してみる価値があります。
見守り契約・財産管理契約・任意後見契約
将来のことが心配な場合、弁護士・司法書士など専門家との間で
- 見守り契約(定期的な連絡や訪問で様子を確認してもらう)
- 財産管理契約(預金の入出金や支払いなどを任せる)
- 任意後見契約(判断能力が低下したときに備え、「この人にサポート役をお願いする」とあらかじめ決めておく)
といった契約を組み合わせる方法もあります。
たとえば、
今:見守り契約+財産管理契約でサポートを受ける
将来:認知症が進んだタイミングで、任意後見契約を家庭裁判所で“発動”してもらう
という流れをイメージしておくと、「いざ」というときに慌てにくくなります。
すでに認知症が進んでいる場合は「成年後見制度」も選択肢に
- 契約の内容を理解するのがむずかしい
- 消費者トラブルや浪費で財産が急に減っている
- 家族だけでは管理が追いつかない
といった状況では、家庭裁判所に申し立てて、
法定の成年後見制度を利用することも検討に入ってきます。
- 第三者の目が入り、財産管理に客観性が出る
- 過去の不利な契約を取り消せる可能性がある
というメリットがある一方で、
- 申立てや定期報告など、事務的な負担
- 専門職後見人への報酬
- 本人のお金の使い方の自由度が下がる場面
といったデメリットもあります。
「必ず使わないといけない制度」ではありませんが、
他の方法では難しくなったときの選択肢として知っておくと安心です。
ステップ5:「最近ちょっと危ないかも」と感じたときの対応
いきなり“全部止める”のではなく、まず現状確認から
物忘れや判断力の低下を感じたときに、
親のお金の使い方が心配でも、いきなり全部を取り上げてしまうと、
強い反発や不信感につながりやすくなります。
まずは、
- 直近数か月分の通帳記帳・クレジット明細を一緒に確認する
- 見覚えのない引き落としや大きな出金がないかチェックする
- 気になる明細は、金融機関や消費生活センターに相談する
といった“現状把握”から始めるのがおすすめです。
口座が動かなくなる可能性も知っておく
銀行窓口での様子や診断書の内容によっては、金融機関側が安全を優先して、
取引に制限をかけることがあります(実質的な口座凍結に近い状態になることも)。
その前に、
- 公共料金・家賃などの引き落とし口座を整えておく
- 生活費用の口座と、貯蓄・将来の介護費用の口座を分けておく
といった準備が少しでもできていると、「いざ」というときに慌てにくくなります。
ステップ6:消費者トラブルから守る生活の工夫

電話・訪問セールスへの対策
- 迷惑電話対策機能付きの電話機を使う
- 「知らない番号には出ない」ルールを家族で共有する
- 突然の訪問販売には、その場では契約せず、家族に確認してからにする
こうした小さな工夫だけでも、被害にあう確率をかなり下げられます。
家族で“合言葉”を決めておく
たとえば、
- 「30万円以上の契約をするときは、必ず子どもに電話する」
- 「1人では“はい”と決めないで、一度持ち帰る」
といった“合言葉”を、親と一緒に話し合っておくのもひとつです。
困ったら消費生活センターへ
怪しい契約や請求があったときは、
ひとりで抱え込まず、早めに消費生活センター(局番なし188)に相談するのがおすすめです。
ケース別のイメージ
遠距離で暮らす一人息子と、地方で暮らすひとり暮らしの母
- 帰省のタイミングで、口座・年金・公共料金の一覧を一緒に作る
- 「30万円以上の契約は、一度電話で相談する」ルールを決める
- 地元の社会福祉協議会で、日常生活自立支援事業の説明を聞いておく
- 将来に備えて、地元の専門家(司法書士など)に任意後見や財産管理契約の相談も検討する
同居して介護している長女と、遠方に住むきょうだい
- 親名義の口座からの出金は、ノートや共有スプレッドシートで記録する
- 月に1回、LINEなどで「今月の収支」をきょうだいに共有する
- ベッドやリフォームなど大きな支出は、事前にオンラインで話し合う
- 認知症が進んで管理が難しくなってきたら、成年後見制度の利用も視野に入れて専門家に相談する
やってしまいがちなNG行動
- 「親のためだから」と、記録なしで多額を引き出す
善意であっても、後から「本当に親のため?」と疑われる原因になります。 - 親のお金と自分のお金を完全に混ぜてしまう
通帳・カード・財布をごちゃまぜにすると、相続やきょうだい間のトラブルの火種になります。 - 怪しい契約や請求を「面倒だから」と放置する
クーリングオフできる期間を逃したり、被害額が大きくなることもあります。
おわりに:今日できることを一つだけ
認知症のお金トラブルは、
「認知症になった瞬間」から急に始まるわけではなく、
元気なうちから少しずつ準備しておくことで、かなりの部分を防ぐことができます。
- お金の全体像を、ざっくりでいいので見える化する
- 日常のお金のルールと、記録の残し方を決める
- 金融機関・社会福祉協議会・消費生活センター、必要なら専門家も味方につける
全部を完璧にやる必要はありません。
「これならできそう」という一歩を、今日ひとつだけ選ぶことが、
将来の不安とトラブルを大きく減らしてくれます。
今日から始められる“具体的な一歩”の例
- 親とゆっくり話せる日を決めて、
「通帳がある銀行名だけでも紙に書き出してみる」 - 近くの地域包括支援センターか社会福祉協議会に電話して、
「親のお金の管理で心配があって…」と相談してみる - 自分自身の今後も気になってきたら、
👉 自分の終活|今から備える10の準備【チェックリスト付き】
を見ながら、自分側のお金の整理も少しずつ始めてみる
このページが、「お金のことで親に怒られたくない」「きょうだいとも揉めたくない」という人の、
落ち着いて一歩進むきっかけになればうれしいです。


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