はじめに:親の「困った行動」に戸惑っているあなたへ
「財布を盗られたと言って怒鳴られる」「夜中に家から出て行こうとする」──
認知症が進むと、今までの親からは想像できない行動に驚き、傷つき、どうしていいのか分からなくなることがあります。
まず最初にお伝えしたいのは、
あなたのせいでも、親の「性格の悪さ」でもなく、病気の症状として起こることが多い
ということです。
この記事では、
- 徘徊・暴言・妄想・夜間せん妄などの「よくある困った行動」
- 家庭でできる、できるだけ安全で現実的な対処法
- 「もう限界かも」と感じたときの相談先・制度の使い方
を、できるだけ専門用語少なめでまとめました。
※介護保険や要介護認定の基本は、別記事
👉 初めての介護保険・要介護認定の取り方入門
で詳しく整理しています。合わせて参考にしてください。
1. 「困った行動」は“ワガママ”ではなく、認知症の症状

認知症の症状は、大きく分けると次の2つに分類されます。
- 中核症状:もの忘れ、時間や場所が分からない、段取りができない など
- 行動・心理症状(BPSD):徘徊、暴言・暴力、妄想、睡眠障害、不安 など
家族が「一番つらい」と感じやすいのは、この BPSD(行動・心理症状) のほうです。
ポイントは、
- 行動そのものを「やめさせよう」とするよりも、
- 「なぜそうせざるを得ないのか」という背景の不安や不快を想像してあげる
ことが大切だという点です。
行動=「困った親」ではなく、「うまく言葉にできないSOSのサイン」
と捉え直すだけでも、少し見え方が変わってきます。
2. よくある「困った行動」と家庭でできる対処法
2-1. 徘徊(家からいなくなる・落ち着きなく歩き回る)

よくあるパターン
- 「仕事に行かなきゃ」「子どもを迎えに行かないと」と言って外に出ようとする
- 目的もなく家の中をウロウロし続ける
- 夜中に玄関の鍵を開けて外に出てしまう
対処の基本
- まずは安全確保を優先する
- 家の鍵や窓の施錠を見直す(補助錠・ドアベルなども検討)
- 近所の人に「実は認知症で…」と簡単に状況を共有し、「見かけたら連絡を」とお願いしておく
- 服や靴・杖などに、名前と連絡先を書いたタグをつけておく
- 行きたい「理由」を探る
「どこかに行こうとしている」とき、多くの場合は
- 昔の仕事への責任感
- 家族の世話をしなきゃという思い
- 今の場所にいることへの不安
などから来ています。
いきなり「出ちゃダメ!」と止めるのではなく、
- 「今日はお休みの日みたいだよ。一緒にお茶を飲んでからにしようか」
- 「迎えにはもう行ったから大丈夫だって先生が言ってたよ」
など、「気持ちを否定せず、安心できる情報」を伝える声かけを意識しましょう。
- 外に出る「欲求」を別の形で満たす
- 日中の 短い散歩 を一緒にする
- 近所のスーパーや公園など、“決まったコース” を作る
- 体力が余っている場合は、室内でできる簡単な体操や家事を一緒に行う
「ずっと座らせておく」よりも、日中に適度に体を動かしてもらうほうが、夜の落ち着きにもつながることがあります。
2-2. 暴言・暴力(怒鳴る・叩く・物を投げる)

よくあるパターン
- 「うるさい!」「出て行け!」と怒鳴られる
- 介助しようと近づいたときに叩かれる・つねられる
- 物を投げる・壊す
対処の基本
- まずは距離を取って、身の安全を確保する
- 無理に抑え込もうとせず、いったん 1〜2メートル離れる
- 危険な物(包丁・硬い置物など)は普段から手の届かない場所に移動しておく
- 言い返さない・正論でねじ伏せない
暴言を浴びると、家族もつい腹が立ち、言い返したくなりますが、
「正しさ」をぶつけるほど、火に油を注いでしまう
ことが多いです。
- 「そう感じさせちゃったね、ごめんね」
- 「今日はなんだか調子が出ない日かな。一回お茶にしようか」
など、感情を受け止めてクールダウンを優先します。
- きっかけをメモして、パターンを探す
- どんなタイミングで暴言・暴力が出やすいか
(例:トイレ介助のとき、夕方〜夜、疲れているとき など) - どんな声かけ・関わり方の後に強くなったか/悪化したか
をメモしておくと、ケアマネジャーや主治医に相談するときの大きなヒントになります。
「この時間帯・場面では無理に介助しない」
「同性のヘルパーさんに変えたら落ち着いた」
など、専門職と一緒に「環境調整」で改善を目指すことができます。
2-3. 妄想(物取られ妄想など)

よくあるパターン
- 「財布を盗んだだろう!」と家族を責める
- 「あの人が悪口を言っている」「隠し事をしている」と思い込む
対処の基本
- 「盗っていない!」と正面から否定しない
物取られ妄想は、「記憶の抜け」を埋めようとして起こる症状です。
本人には本人なりの“筋の通った”現実なので、強く否定されると余計に不安や怒りが強まります。
- 「それは心配だよね。一緒に探してみようか」
- 「置き場所を変えたかもしれないね。昨日は何をしてたか一緒に思い出してみよう」
と、気持ちに寄り添いながら現実的な行動につなげるイメージです。
- “安心ボックス”や“決め場所”を作る
- 財布・通帳・大事な書類などは、決まった箱や引き出しにまとめておく
- その場所の写真を撮って、本人と一緒に確認しておく
(「何かあったらここを一緒に見れば安心だよ」と伝える)
こうして「ここを見れば大丈夫」という拠り所があると、妄想が和らぐことがあります。
- 財産管理は“元気なうち”から話し合っておく
物取られ妄想が強くなると、通帳や印鑑を家族に渡してもらえず、
介護費用の支払いなどで困るケースも少なくありません。
- 早めの段階から、お金の一覧化・管理方法を一緒に整理しておく
- 必要に応じて、成年後見制度・任意後見契約なども検討する
など、「お金と介護」の整理は、別途落ち着いて話し合う必要があります。
2-4. 夜間せん妄・昼夜逆転(夜中に大声・家の中を歩き回る)

よくあるパターン
- 夜中に急に起きて、「仕事に行かなきゃ」と準備を始める
- 夕方になると落ち着かなくなり、イライラ・不安が強まる(“夕暮れ症候群”)
- 昼間よく寝ていて、夜に目がさえてしまう
対処の基本
- 生活リズムと環境を整える
- 昼間に短時間でも 外に出て日光を浴びる(ベランダでもOK)
- なるべく同じ時間帯に食事・入浴・就寝をそろえる
- 寝る前のテレビ・スマホは控えめにし、照明も少し落とす
- 夜間の“見守りの仕組み”を整える
家族がずっと起きて見守るのは現実的ではありません。
- センサーライト・ドアチャイムなどで、「動きがあったら分かる」ようにする
- 在宅介護が厳しい場合は、ショートステイや 夜間・早朝の訪問介護 の利用を検討する
「全部自分で見る」のではなく、サービスと分担する発想が大切です。
2-5. 入浴・服薬・受診の拒否
よくあるパターン
- 「今日はいい」「明日やる」と入浴を拒否し続ける
- 薬を飲んでくれない・吐き出してしまう
- 病院へ行こうとすると怒る・行きたがらない
対処の基本
- 理由を探って、負担を減らす
- 入浴:浴室が寒い/滑りそうで怖い/疲れる
- 服薬:錠剤が大きくて飲みづらい/何の薬か分からない
- 受診:待ち時間が長い/行く意味が分からない など
具体的な理由が見えてくると、
- デイサービスの入浴を利用する
- 主治医に相談し、薬の形状を変えてもらう
- かかりつけ医や「もの忘れ外来」に変える
などの選択肢も見えてきます。
- タイミングと声かけを工夫する
- 機嫌の良い時間帯に、「今なら空いてるみたい」とさらっと誘う
- 入浴は「体を洗う」よりも、「足湯だけ」「シャワーだけ」など、ハードルを下げて提案する
- 薬は「医者に言われたから飲んで」ではなく、「これを飲むと夜よく眠れるよ」など、本人にとってのメリットを具体的に伝える
- どうしても難しいときは“専門職にバトンタッチ”
- ケアマネジャーや訪問看護師に、説得や説明をお願いする
- デイサービスやショートステイで、入浴・服薬をサポートしてもらう
家族が言っても聞いてもらえないことでも、「専門家」「第三者」のほうが受け入れられやすいことはよくあります。
3. 家族が一人で抱え込まないために
3-1. 介護保険と地域の相談窓口をフル活用する

「困った行動」が続くときは、家庭だけで抱え込まず、
介護保険サービスや地域の相談窓口を使うことがとても大事です。
- 市区町村の 地域包括支援センター
- かかりつけ医・もの忘れ外来
- ケアマネジャー(介護保険申請後)
などは、「困った行動」への対応も含めて相談に乗ってくれます。
介護保険の申請〜ケアマネとの付き合い方は、
👉 初めての介護保険・要介護認定の取り方入門
で、最初の一歩から順番に整理しています。
3-2. 遠距離介護・仕事との両立・きょうだいとの分担
認知症介護は、「同居・専業主婦」の家庭だけの話ではありません。
- 親と離れて暮らしている(遠距離介護)
- 仕事や子育てと両立しながら介護している
- きょうだいの負担に差があり、不公平感がたまっている
など、「生活全体」を考えながら調整していく必要があります。
- 遠方に住む子ども向けの視点は
👉 遠距離介護の始め方|月1回しか帰れなくても「できること」と「やらなくていいこと」 - 在宅か施設かで悩んでいるときは
👉 在宅介護か施設か迷ったら|後悔しないための考え方 - 仕事との両立が不安なときは
👉 仕事と介護の両立が不安なあなたへ|会社への伝え方&介護休業・介護休暇の基本
も、具体的なイメージづくりに役立つと思います。
4. こんなときはすぐに専門職へ相談を
次のような場合は、できるだけ早く医療機関や地域包括支援センターに相談してください。
- 急に性格が変わった/幻覚・妄想が急に強くなった
- 昼夜問わず暴れる・自傷他害の恐れがある
- 食事や水分が取れない/急激な体重減少がある
- 徘徊が頻繁で、命の危険を感じる場面が増えた
「薬で抑える」かどうかを含めて、
- 本当に認知症による症状なのか
- 他の病気(感染症・脱水・薬の副作用など)が隠れていないか
を、医師に確認してもらう必要があります。
5. まとめ:完璧じゃなくていい。「一人にしない」ことがいちばんのケア

認知症の「困った行動」は、
- 病気による脳の変化
- 不安・孤独・体の不調
- 周囲の環境やケアの仕方
が重なって表に出てくるものです。
家族ができるのは、
- 安全を守ること
- 本人の不安を想像し、否定よりも「安心」を増やすこと
- 介護保険や専門職と協力し、「一人で抱えない」こと
の3つです。
「全部ちゃんとできていない自分はダメだ…」
と責めてしまいそうになったら、
この記事に戻ってきて、「できていること」を一緒に数えていきましょう。


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