「親には持ち家がある。でも、現金や年金は多くない。これから介護や医療費がかかってきたら、どうしたらいいんだろう……」
そんな不安を抱えている方は、とても多いです。
この状況でよくあるのは、
- とりあえず子どもが自分の貯金から出し始めてしまう
- 「家を売るしかないのかな」と、感情的に追い詰められてしまう
というパターンです。
この記事では、
親の「持ち家」と「少ない現金・年金」をどう組み合わせれば、
親の生活と介護を支えつつ、子ども世帯も潰れずにすむのか
を、順番に整理していきます。
まず押さえておきたい考え方

持ち家は、言い方を変えると「大きいけれど動かしづらい資産」です。
一方で、介護や医療で必要になるのは「毎月の現金」です。
いきなり「家を売るか」「リバースモーゲージを使うか」といった話に飛んでしまうと、気持ちも家族関係も荒れがちです。
基本の優先順位は、次のように考えると整理しやすくなります。
- 親の年金・貯金をどこまで介護費に回せるか整理する
- 介護保険や医療の公的制度で、支出をできるだけ圧縮する
- それでも足りない部分を「家の活用(貸す・売る・リバースモーゲージなど)」で補う
- 最後に、それでも不足する部分だけを、子ども世帯が無理のない範囲で負担する
この順番で見ていくと、
- 子どもの持ち出しが「どれくらい必要か」が見えやすくなる
- 家をどう扱うかも、感情だけでなく数字で判断しやすくなる
というメリットがあります。
※ここで初めて「リバースモーゲージ」という言葉が出てきましたが、
聞き慣れない方も多いと思うので、最初に簡単に説明しておきます。
リバースモーゲージとは?
リバースモーゲージとは、
自宅を担保にお金を借り、毎月の返済はほとんどせず、
亡くなった後などに自宅を売却した代金で一括返済するタイプのローン
のことです。
- 「家には住み続けたいけれど、老後資金や介護費が足りない」ときの選択肢のひとつ
- 自宅を売らずに資金を作れる、というメリットがある一方で、
- 不動産価格が下がると、想定より返済条件が厳しくなる可能性
- 対象エリアや物件に条件がある
- 契約終了時に、家を手放さざるを得ない場合もある
などのリスクもあります。
そのため、「魔法のように便利な制度」というよりは、
条件をよく確認したうえで選ぶ、
いくつかある選択肢のひとつ
くらいに考えておくと安心です。
「現金が少ない」不安の正体は、月いくら足りないか見えていないこと
「現金が少ない」と感じていても、よくよく整理してみると、
- 親の年金+公的制度で、意外と回せるケースもあれば
- 反対に、「このままだと毎月数万円ずつ赤字が続く」と分かるケースもあります
どちらにしても、まず大事なのは、
- 毎月いくら赤字なのか
- その状態が、だいたい何年くらい続きそうなのか
を、ざっくりでも「見える形」にすることです。
ここが見えないまま動き始めると、
「何となく不安だから、子どもが多めに出してしまう」という状態になりやすく、長期戦で疲れてしまいます。
ステップ1:親のお金と介護費の現状を見える化する
親の収入・支出を書き出す

紙でもエクセルでも構いません。最低限、次の項目だけでも書き出してみてください。
毎月の収入
- 公的年金(老齢基礎年金・厚生年金など)
- 企業年金・個人年金
- 家賃収入などがあれば、それも
毎月の支出
- 生活費(食費・光熱費・通信費・日用品など)
- 医療費(定期通院・薬)
- すでに利用している介護サービスの自己負担分
手元の金融資産
- 預貯金
- 解約すれば現金になる保険
- 投資信託・株など
ざっくりで構いませんが、家族で同じ数字を共有することが大切です。
介護費の目安をつかむ
在宅介護の場合、介護サービスの自己負担は、平均すると月3〜7万円程度におさまることが多いとされています(要介護度やサービスの組み方で変わります)。
- 要介護1:月3〜4万円前後
- 要介護3:月6万円前後
- 要介護5:月7万円前後(組み方によってはもっと増えることも)
施設介護(特養など)の場合は、
- 介護サービス費
- 居住費
- 食費
などを合わせると、月10〜15万円前後がひとつの目安になります。
介護保険そのものの仕組みや、要介護認定の流れについては、
「初めての介護保険・要介護認定の取り方入門」 で、もう少し丁寧にまとめています。
ここまで整理すると、
親の年金 ◯万円
− 生活費 △万円
− 医療費 □万円
− 介護費 ◇万円
= 毎月の赤字 ▲万円(もしくは黒字)
が、大まかに見えてきます。
この「▲万円」が、
- ほぼゼロ〜数千円で済むのか
- 月1〜2万円くらいなのか
- もっと大きいのか
によって、家の使い方や子どもの負担の決め方が変わってきます。
ステップ2:子どもが出す前に、公的制度で支出を圧縮する
介護保険の自己負担は1〜3割
介護サービスを利用したときの自己負担は、原則1〜3割です。
- 多くの高齢者は1割負担
- 一定以上の所得がある場合のみ2〜3割負担
つまり、
「介護費が高い=制度が効いていない」ではなく、
「同じ自己負担額でも、サービスの組み方次第で負担感が変わる」
というイメージです。
ケアマネジャーに
「このくらいの自己負担額で抑えたいです」
と正直に伝えることで、現実的なプランを一緒に考えてもらいやすくなります。
医療・介護の負担上限を決める制度もある
代表的なものとして、たとえば次のような制度があります。
- 高額介護サービス費(介護保険)
- 高額療養費制度(医療保険)
- 社会福祉法人による利用者負担軽減
- 自治体独自の減免・助成制度(非課税世帯など)
こうした制度を使うと、
「1年間で払う医療・介護費の上限」
がある程度決まり、
「今後どれくらいお金が出ていくのか」の見通しを立てやすくなります。
ステップ3:持ち家をどう生かすか?4つの選択肢

親に持ち家があるからこそ、取れる選択肢も増えます。
大きく分けると、次の4つです。
- そのまま住み続ける
- 貸す(賃貸に出す・マイホーム借り上げなど)
- 売る
- リバースモーゲージなどで担保に入れる
在宅で続けるか、施設入所も視野に入れるかで迷っている場合は、
「親の介護施設の種類と選び方|特養・老健・有料老人ホーム・サ高住を『家族目線』で比較」 を先に読んでおくと、
「どこで暮らすのか」と「家をどう活用するか」を一緒に考えやすくなります。
選択肢①:そのまま住み続ける
向いているケース
- まだ在宅生活が成り立っている
- 親が家に強い愛着を持っている
- 子どもも「できれば家を残したい」と思っている
メリット
- 住み慣れた環境で暮らせる安心感
- 引っ越しによる心身の負担が少ない
注意点
- 固定資産税や修繕費はかかり続ける
- 将来的に空き家になるリスク(親が施設に入る/亡くなる など)
選択肢②:貸す(賃貸・マイホーム借り上げなど)
親が施設に入る、もしくは一人暮らしが難しくなり家が空き家になりそうなときに考えられる選択肢です。
メリット
- 家賃収入で介護費や生活費の一部を賄える
- 空き家として放置するより、管理の手間やリスクを減らしやすい
注意点
- 貸せる状態にするためのリフォーム費用がかかることがある
- 立地や築年数によっては借り手が付きにくい
- 空室期間は収入がゼロになるリスク
選択肢③:売る
「子どもが住む予定はない」「維持が難しい」という場合の選択肢です。
メリット
- まとまった現金が入り、介護費・生活費・医療費などに充てやすい
- 将来の空き家問題を前倒しで解消できる
注意点
- 親本人の合意が必須(しっかり話す時間が必要)
- 売却益に税金がかかることもある
- 売るタイミング・価格の見極めが難しい
選択肢④:リバースモーゲージなどで担保に入れる
自宅には住み続けながら、家を担保にして資金を得る方法です。
(銀行のリバースモーゲージ、自治体の制度、リースバックなど、商品はいくつか種類があります)
メリット
- 自宅を手放さずに、介護・生活費の原資を確保できる
- 売却のタイミングをすぐに決めなくてよい
注意点
- 金利変動や不動産価格の下落によって、あとで条件が厳しくなるリスク
- 対象エリア・物件・年齢などの条件がある
- 契約終了時(亡くなったときなど)、家を売却して返済するのが基本
→ 子どもが「家を残したい」と思っている場合は、慎重な検討が必要
ケース別ミニシミュレーション
※数字はイメージしやすくするための「ざっくり例」です。
実際には、ケアマネさんや専門家と一緒に詳しく確認してください。
ケース1:年金12万円/月、要介護2、在宅希望
- 収入:年金 12万円
- 支出:
- 生活費 8万円
- 医療費 1万円
- 介護サービス自己負担 4万円(要介護2で在宅フル利用イメージ)
→ 毎月の赤字:約1万円
この場合の打ち手の例:
- ケアマネと「自己負担はこのくらいまでにしたい」と共有し、サービス内容を調整してもらう
- 高額介護サービス費などの対象になるか確認する
- 親の貯金が200〜300万円程度あれば、「毎月1万円の赤字 × 数年」はそこから補う
- 家の活用(貸す・売る・リバースモーゲージ)は、
「赤字が大きくなる」「貯金が減ってきた」タイミングで改めて検討
このくらいの規模であれば、
いきなり家を売ったり担保に入れなくても回せるケースもあります。
ケース2:親は施設入所、自宅は空き家になりそう
- 親:特養に入所
- 介護・居住・食費などで月10〜12万円前後の支出
- 親の年金:月10万円
- 自宅は空き家(固定資産税と最低限の管理費が年数万円)
→ 毎月の赤字:1〜2万円+空き家の維持費
この場合の考え方:
- 「親の貯金で何年くらい赤字+維持費をカバーできるか」を計算
- 難しい場合は、「売る」「貸す(マイホーム借り上げなど)」も含めて検討
- 子どもが将来住みたい場合は、
- 一定期間は貸して家賃収入を得てから戻る
といった中長期のシナリオも選択肢になります。
- 一定期間は貸して家賃収入を得てから戻る
子ども世帯の家計が厳しいときの考え方

法律上は、子どもには「扶養義務」があります。
とはいえ現実には、
- 子どもの老後資金
- 子どもの子どもの教育費
- 自分たちの生活費
を削ってまで、長期にわたって親を支え続けるのは、とても大きな負担です。
そこで大事にしたいのが、
親の生活・介護費は、まず「親のお金」と「家」で賄う
子どもの支援は、「どうしても足りない部分」を補う役割にとどめる
という考え方です。
「親のお金や持ち家を使うのは申し訳ない」と感じる人も多いのですが、
もともと親の資産は、親の生活と人生を守るためのものです。
子ども世帯が無理をしすぎて共倒れになる前に、
- 親の資産をどう使うか
- 家をどう位置づけるか
を、家族みんなで話し合っておくことが、結果的に親のためにもなります。
法律・相続のNGラインは必ず意識しておく
「なんとかしなきゃ」と焦るほど、
ついやってしまいがちな“危ないライン”もあります。
- 親の口座から、同意や記録なしに大きな額を移す
→ 将来、きょうだいから「使い込み」と疑われやすい
親のお金をどこまで・どう管理していいのか迷うときは、
「親のお金を“勝手に使わないために”|通帳管理・立て替え精算・成年後見の基礎ルール」 を読んでおくと、
トラブルを防ぐための考え方と、最低限おさえておきたい実務ルールが整理しやすくなります。
- 認知症がかなり進んでから、自宅を売ったりリバースモーゲージを組もうとする
→ 判断能力が不十分だと、成年後見制度が必要になり、時間も手間も増える - 安易に家の名義を子どもに変えてしまう
→ 贈与税・将来の相続・介護保険料の算定などで、思わぬ影響が出ることがある
家を動かす・大きなお金を動かす前には、
司法書士・税理士・ファイナンシャルプランナーなど、専門家への相談も選択肢に入れておくと安心です。
まとめ:家をどうするかより、「誰がどこまで背負うか」を先に決める
「持ち家はあるけれど、現金が少ない親」のケースで大切なのは、
- いきなり家の話に飛ばない
- まずは「毎月いくら足りないのか」を数字で見える化する
- 公的制度を使いながら、介護・医療の負担をできるだけ軽くする
- 家を活用するのは、親の意向・子ども世帯の家計・将来の相続を含めて検討する
- 子どもが背負うのは「どうしても足りない部分」だけ、という線を引いていい
ということです。
最初の一歩チェックリスト
この記事を読み終えたあと、できそうなところからで大丈夫です。
- 親の毎月の収入と支出を、ざっくり書き出してみる
- 地域包括支援センターやケアマネに、介護サービス費の目安を相談してみる
- 医療・介護の負担を軽くしてくれる制度を、ひとつでも確認してみる
- 自宅を「残したいか」「活用してもいいか」を、家族で一度話してみる
- 家を売る・貸す・リバースモーゲージなどを検討する場合は、専門家に話を聞く予定を立てる
「持ち家はあるけれど、現金が少ない」という状況は、
とても不安になりやすいものです。
それでも、
親のお金・公的制度・家の活用
+ 子ども世帯の“無理のない範囲”
を組み合わせていくことで、
「誰か一人が全部背負う」状態から、少しずつ抜け出していくことができます。


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