親の家が「ゴミ屋敷ぎみ」でも、あなたが「全部きれいにしなきゃ」と背負い込む必要はありません。
目指したいのは、
- 親を傷つけず
- あなた自身もつぶれず
- 「命と健康に関わる危険だけは減らす」
この、現実的なラインです。
家じゅうを一気に片付けようとすると、
- 親との関係がこじれてしまう
- あなたの心と体が先に限界を迎えてしまう
ということも珍しくありません。
この記事では、
- なぜ親の家がゴミ屋敷ぎみになってしまうのか
- 親を責めない声かけのコツ
- 少しずつ片付けを進めるステップ
- 家族だけで抱え込まないための相談先
まで、「完璧ではないけれど、現実的にできること」を一緒に整理していきます。
なぜ親の家が「ゴミ屋敷ぎみ」になってしまうのか

認知症やセルフネグレクトのサインかもしれない
まず知っておきたいのは、
「だらしない性格だから」だけが原因とは限らないということです。
たとえば…
- 物をどこに置いたか忘れて、出しっぱなしになる
- 片付けや掃除の段取りがうまく組めなくなる
- 「もうどうでもいい」と生活全体への意欲が落ちている
といった状態は、認知症の初期や「セルフネグレクト」と呼ばれる状態のサインのこともあります。
ここで、
「なんでこんなに散らかすの!」
と性格の問題にしてしまうと、
本人は「責められた」「否定された」と感じてしまいがちです。
「心や体の変化かもしれない」という視点を持つだけで、 対応の仕方や声のかけ方が、少しやわらかくなります。
体力・視力の低下で「できない」状態になっている
年齢とともに、片付けそのものが負担になることも増えてきます。
- 腰や膝が痛くて、しゃがんだり持ち上げたりがつらい
- ゴミ出し場が遠く、一度に運びきれない
- 視力が落ちて、ホコリや汚れがあまり見えない
親の感覚としては、
「前と同じようにできているつもり」
でも、実際には
「片付けたいけれど、体力的に追いつかない」
ということもよくあります。
「やらない」のではなく「できない」のかもしれない。
そう思ってみるだけでも、イライラが少し和らぐことがあります。
ものが「思い出」や「安心材料」になっている
散らかった部屋のなかには、
親の人生の「思い出」や「さみしさを埋めるためのもの」も混ざっています。
- 亡くなった配偶者との思い出の品
- 若いころにがんばって買った物
- 一人暮らしの不安を埋めるための物
そんな中で、
「なんでこんなガラクタ取ってあるの!」
と言われると、
「自分の人生を否定された」と感じてしまう人もいます。
“思い出そのもの”まで否定しない姿勢が、
このあと片付けの話を切り出すときの土台になります。
「そもそも実家の片付けって、どこからどう始めればいいの?」という段階なら、
もう少し“ふつうの状態”の実家を前提にした準備編の記事も参考になると思います。
👉 親と片付けを始める前の心構えや段取りをまとめた
『親の家の片付けを始める前に知っておきたい3つの準備』
も、よかったら合わせて読んでみてください。
ステップ1:まず「安全ライン」を確認する(命と健康の視点)
ここからは、具体的な片付けステップに入っていきます。
とはいえ、いきなり「見た目のきれいさ」を目指さなくて大丈夫です。
最初にチェックしたいのは、「命と健康に関わる危険がないか」というポイント。
- 火事のリスクはないか
- 転倒しそうな場所がないか
- 衛生面で大きな問題になっていないか
まずはここだけを確認していきます。
安全ラインチェックリスト(まずここだけ押さえる)

✅「全部きれい」は目指さなくてOK。
✅「ケガ・病気・火事につながるところだけは守る」がゴールです。
【1. 火のまわり(コンロ・ストーブ)】
- □ コンロの近くに、紙や布が積まれていない
(チラシ・新聞・段ボール・ふきん・服など) - □ ストーブの前後左右1m以内に、洗濯物・布団・服・紙袋などが置かれていない
【2. 動線(玄関〜廊下〜トイレ・お風呂)】
- □ よく歩く通り道に「またぐしかない物」がない
- □ 段差・階段の近くに物が積まれていない
- □ 手すりや壁を、しっかりつかめるスペースがある
【3. 水回り(トイレ・お風呂・洗面所)】
- □ トイレまで、物をまたがずに歩いて行ける
- □ 浴室の床に物が散乱しておらず、滑りそうな物がない
- □ 洗面所の足元に物が積まれていない
【4. 食品・ゴミまわり】
- □ 台所に、明らかに腐っていそうな物が放置されていない
- □ 生ゴミの袋が、むき出しでいくつも放置されていない
- □ 冷蔵庫に、「いつのか分からないタッパー」が大量にない
【5. その他】
- □ 寝室やリビングの壁一面に、カビが広がっていない
- □ 窓や換気扇が、まったく開かない状態ではない
- □ タコ足配線やコンセント周りに、ホコリが厚くたまっていない
このチェックで「明らかに危ないところ」から手をつけていくだけでも、 かなりリスクを減らすことができます。
ステップ2:親の気持ちを傷つけない声かけ・伝え方
次に大事なのが「言い方」です。
同じことを伝えるにしても、
- 「責められた」と感じる言い方
- 「心配してくれている」と感じる言い方
では、その後の反応が大きく変わります。
ここでは、すぐに使える言い換えの例文をまとめます。
親への声かけ・伝え方の例文集(NGとOKの言い換え)

1. 家の状態を指摘したいとき
- NG:
「なんでこんなゴミだらけにしたの?」
「こんなの、ゴミ屋敷だよ!」 - OK:
「歩くところがちょっと狭くなってきてて、
お母さんがつまずかないか心配なんだ。」
「全部じゃなくていいから、
転びそうなところだけ一緒に片付けてもいい?」
2. 台所・コンロ周りを片付けたいとき
- NG:
「台所、汚すぎ。よくこんなところで料理できるね。」
「危ないから全部捨てるからね。」 - OK:
「ここでお料理してるときに、
紙とか布が火に近くて、ちょっとドキッとしちゃって…。」
「コンロの近くの分だけ、一緒に片付けさせてもらってもいい?」
「お母さんが安心して料理できるようにしたいんだ。」
3. 動線(廊下・玄関)を片付けたいとき
- NG:
「こんな置き方してるから転ぶんだよ。」
「邪魔だからどかしてよ。」 - OK:
「夜トイレ行くときに、ここでつまずいたら大ケガになるから、
ここだけ一緒に場所を変えない?」
「全部片付けようって話じゃなくて、
お母さんの通り道だけ広げたいなって思ってるんだ。」
4. 思い出の物・捨てづらい物に触れるとき
- NG:
「こんな昔の雑誌、誰も見ないよ。」
「ガラクタばっかり。さっさと捨てよう。」 - OK:
「これは大事にしてきた物なんだよね。」
「全部は難しくても、
特に残したい物と、写真だけ残して手放せそうな物に分けてみない?」
「残す物はちゃんときれいに置いておこうよ。」
5. 行政や専門家への相談を切り出すとき
- NG:
「もう手に負えないから、役所に通報するからね。」
「業者呼んで、全部片付けさせるから。」 - OK:
「私だけだと、正直ちょっと手が回らなくて…。
お母さんの負担が減るように、一緒に相談できる窓口があるみたいなんだ。」
「頼りないかもしれないけど、
私だけじゃ不安だから、専門の人にも手伝ってもらえたら安心だなって。」
6. 親が断固拒否するときの“引き際のひと言”
- 「今日はここまでにしようか。
また別の日に、お母さんの元気なときに相談させて。」 - 「無理にやらせたいわけじゃなくて、
心配だから話してるだけってことだけ分かってもらえたら嬉しい。」
言い方を少し変えるだけでも、
親の受け取り方は大きく変わってきます。
ステップ3:一気にやらない、小さく始める片付けの進め方
ゴミ屋敷ぎみの家を前にすると、
全体を見て気が遠くなってしまうこともありますよね。
ここでのポイントは、
「家全体をきれいにする」ではなく、 「優先度の高い場所を、小さく区切って片付ける」こと。
優先度の高い場所から手をつける
安全ラインとも重なりますが、優先順位の目安はこんな流れです。
- 玄関〜廊下〜トイレ・お風呂までの動線
- 台所・コンロ周り
- 寝室周り(ベッドの周り・夜間の動線)
- 親が長く過ごす場所(リビングなど)
「今回は玄関だけ」
「今日はシンクの中だけ」と決めて、
1回につき“1エリア”に絞るのがおすすめです。
「1エリアずつ」と「保留ボックス」で親の抵抗を減らす
- その場で決めきれない物は、
→ 「保留ボックス」に入れておく - すぐに捨てられない物は、
→ 「〇月まではこの箱に置いておいて、それでも使わなかったら手放そうか」と“猶予期間”を決める
こうすることで、
- 親は「勝手に捨てられた」と感じにくい
- あなたも「今日はここまでできた」と区切りをつけやすい
というメリットがあります。
“完了させること”よりも、“前に進んでいる感覚”を大事にする。
長期戦になりやすい片付けでは、とても重要な視点です。
ステップ4:家族だけで抱え込まない|行政・専門職への相談

ここまで読んで、
「正直、家族だけではとても手に負えない…」
と感じた方もいるかもしれません。
そんなときに覚えておいてほしいのは、
深刻なゴミ屋敷化に、一人で立ち向かう必要はないということです。
まず相談したい公的窓口(地域包括支援センターなど)
たとえば、こんな窓口があります。
- 地域包括支援センター
- 市区町村の高齢福祉課・介護保険課
- 場合によっては、保健所・生活支援窓口 など
「親が散らかった家で一人暮らしをしていて心配」
「認知症かもしれない、生活が回っていない気がする」
こうした相談は、本人が嫌がっていても、家族だけでまず相談することができます。
ゴミ屋敷ぎみの生活の裏には、
介護保険のサービスや医療的な支援が必要なケースも少なくありません。
介護保険の全体像や、要介護認定の流れをもう少ししっかり知っておきたいときは、
で、基本から整理しています。
「どこに相談して、何から始めればいいか」のイメージをつかむのに役立つと思います。
ゴミ屋敷レベルが深刻なときの行政対応・条例について
自治体によっては「ごみ屋敷条例」のような仕組みがあり、
近隣に悪影響が出ているケースでは、指導や支援が入ることもあります。
多くのご家族が望んでいるのは、
「親を罰してほしい」のではなく、
「親の生活が少しでも安全になるように手を貸してほしい」
ということだと思います。
その気持ちを担当者に伝えながら、
行政を「敵」ではなく「一緒に考えてくれる味方」として使っていくイメージでいると、相談しやすくなります。
専門の片付け業者を使うときのポイント
業者への依頼は「最後の手段」ではなく、
「家族だけでは難しい部分を手伝ってもらうサービス」として考えても大丈夫です。
- メリット
- 短期間で一気に片付けが進む
- 害虫・悪臭など、家族だけでは対応しづらい部分も任せられる
- デメリット
- 費用がかかる
- 親が「知らない人が家に入ること」に抵抗を感じることがある
親に提案するときは、こんな言い方もおすすめです。
「全部勝手に捨てさせるんじゃなくて、
重たい物を運んでもらったり、汚れているところをきれいにしてもらう感じだよ。
私も一緒にいるから、嫌な物まで捨てさせないからね。」
「自分の知らないところで全部決められてしまうわけではない」と伝えてあげると、
少し受け入れてもらいやすくなります。
ステップ5:再びゴミを溜め込まないための「仕組み」を作る
一度片付けても、
仕組みがないと、また同じ状態に戻ってしまうことも少なくありません。
ここでは、「完璧な収納」ではなく、
「親が無理なく続けられる仕組み」を作ることを目指します。
ゴミ出し・買い物・通販を見直す
- ゴミ出しが大変なら
→ ヘルパーの家事援助・地域の生活支援サービスを検討する - 通販の段ボールが溜まりやすいなら
→ 段ボール置き場を1カ所に決めて、「ここからあふれたら処分」のルールを決める - 定期購入・チラシ・無料配布物を見直す
→ 「家に入ってくる物を減らす」だけでも、散らかり方はかなり変わります。
「親が続けられる」シンプルな収納と動線づくり
- 複雑な収納グッズは増やしすぎない
- 「使う物だけを、使う場所に」置く配置を意識する
- ラベルを貼るなら、大きく・分かりやすく
“美しい収納”よりも、“ラクに片付けられる動線”のほうがずっと大事です。
それでもつらいあなたへ|「全部は救えなくてもいい」と思ってほしいこと
ここまで読んでくださったということは、
それだけ、親のことを真剣に考えてこられたのだと思います。
- 片付けても片付けても、また散らかってしまう
- 何度言っても親が動いてくれない
- 兄弟姉妹もあまり協力してくれない
そんな状況が続くと、
「自分の努力が報われない」
「なんで私だけが…」
と感じてしまうのも、当然のことです。
ここで、ひとつだけ覚えておいてほしいことがあります。
- あなた一人の力で、親の家も人生も「完璧」にする必要はない
- 「命と健康のライン」を少し上げられただけでも、 それは十分すぎるほどの貢献
ということです。
実家の片付けや介護のことを考えていると、
つい「自分のこと」は後回しになりがちです。
もし今、
「もう限界かもしれない」
「ちょっとしんどくなってきたな」
と感じているなら、
まずはあなた自身の心と体を守ることを優先してほしいです。
そんなときに、少し深呼吸をしながら読んでほしい記事として、
👉 『介護で心が折れそうなあなたへ|“介護うつ”になる前にできる7つのこと』
も用意しています。
「がんばり方」ではなく、「少し力を抜くための視点」を一緒に考える内容です。
まとめ:責めずに、一人で抱え込まずに、できる範囲で
最後に、このページの内容をまとめます。
- 親の家がゴミ屋敷ぎみでも、
「性格の問題」と決めつけず、心や体の変化の可能性も考える - まずは「命と健康の安全ライン」を確認し、
危険な箇所から優先して整える - 言い方は
「責める」のではなく「心配している」「一緒にやりたい」 - 家全体を一気にきれいにしようとせず、
1エリアずつ、小さく区切って進める - 行政や専門業者も、
「敵」ではなく「一緒に考えてくれる味方」として頼る - 片付けたあとは、
再び溜め込まないための“仕組み”づくりを意識する - そして何より、
あなた自身の生活と心の健康も守っていい
この記事が、
「全部は無理でも、この一歩だけやってみようかな」
と思えるきっかけになれば、とてもうれしいです。


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