親が運転をやめてくれないときの伝え方と、車のない暮らしの移動手段の考え方

終活の基本

「そろそろ運転は危ないんじゃないかな…」
そう感じているのに、親は「まだ大丈夫」「今まで一度も事故なんてしてない」の一点張り。
ニュースで高齢ドライバーの事故を見るたびに、胸がぎゅっと苦しくなる——そんな状態になっていませんか。

結論から言うと、親に運転をやめてもらうときは、

  • 「危ないから、すぐやめて」と一方的に説得するのではなく
  • 親の気持ち(自由・プライド・生きがい)をできるだけ尊重しながら
  • 車がなくなっても生活が回るように、移動手段を一緒に考えていくこと

が、とても大切になります。

この記事では、

  • なぜ親は運転をやめたがらないのか
  • どんな伝え方なら話がこじれにくいのか
  • 車を手放したあと、どんな移動手段・生活の仕組みを作っていけばいいのか

を、順番に整理していきます。

  1. なぜ、親は運転をやめたがらないのか
    1. 「車=移動手段」ではなく「自由と自信」の象徴になっている
    2. 数字だけでは動かない。「気持ち」の問題も大きい
    3. 親の本音はこんなところにあるかもしれない
    4. 「危ないからダメ」ではなく「守りたいもの」がある
  2. 「やめて」と言う前に、家族が準備しておきたいこと
    1. いきなり説得に入らず、「準備」と「家族の足並み」をそろえる
    2. 1.「本当に危ないのか?」を冷静に見てみる
    3. 2.家族で「誰がどう関わるか」を共有しておく
    4. 3.「車がなくなったあとの暮らし」をざっくりイメージしておく
  3. 親への伝え方:NGワードとOKフレーズ
    1. 親を「子ども扱い」「ダメ出し」しない言い方に変える
    2. 1.やりがちなNGワード
    3. 2.OKフレーズの基本は「一緒に考えたい」
    4. 3.「事実+自分の感情」で伝える
    5. 4.「別の移動方法」とセットで話す
  4. 車を手放したあとに考えたい移動手段
    1. 1つに頼らず、「いくつかを組み合わせる」イメージで
    2. 1.自治体の交通サービス・タクシー助成を確認する
    3. 2.家族で「送迎できる範囲」を言葉にしておく
    4. 3.ネットスーパー・宅配・移動販売を取り入れる
    5. 4.中間案として「距離や時間を絞る」という選択も
  5. どうしても話が進まないときにできること
    1. 一人で抱え込まず、「第三者」と「時間」の力も借りる
    2. 1.一度時間を置く・テーマを変えてみる
    3. 2.専門職や第三者に「ひとこと言ってもらう」
    4. 3.それでも危険が大きいと感じるとき
  6. 「完璧にはできなくていい」と、自分にも言ってあげる
    1. 子ども側も、自分を責めすぎなくていい
    2. どんな選択にも、メリットとデメリットがある
    3. 今日できる一歩は、「一人で抱え込まないこと」
  7. おわりに:親の「自由」と「命」を、どちらも大事にするために

なぜ、親は運転をやめたがらないのか

「車=移動手段」ではなく「自由と自信」の象徴になっている

子どもから見ると、車は「移動するための道具」です。
一方、親にとっての車は、

  • 「自分でどこへでも行ける」という自由
  • 「まだ元気でいる」という自信
  • 長年続けてきた習慣・生活リズム・楽しみ

が詰まった存在になっていることが多いです。

数字だけでは動かない。「気持ち」の問題も大きい

高齢ドライバーの事故のニュースを見て、

  • 「一部の人の話でしょ」
  • 「自分は慎重に運転しているから大丈夫」
  • 「今まで無事故だったんだから、これからも大丈夫なはず」

と感じてしまうのも、ある意味自然なことです。

長年、家族を乗せて走ってきた車であり、
「家族のために働いてきた自分」を支えてくれた存在でもあります。

親の本音はこんなところにあるかもしれない

親御さんから、こんな言葉が出ていませんか。

  • 「車がないと病院にも行けないんだよ」
  • 「あの店の人と話すのが楽しみなんだ」
  • 「免許を返したら、一気に年寄り扱いされる気がする」

この言葉の裏には、

  • できるだけ自分で動きたい
  • 子どもに迷惑をかけたくない
  • “もうできない人”として扱われたくない

という気持ちが隠れていることが多いです。

「危ないからダメ」ではなく「守りたいもの」がある

だからこそ、運転の話をするときは、

「危ないから、やめなさい」ではなく、
「お父さん(お母さん)に、これからも元気でいてほしいから、一緒に考えたい」

というスタンスで向き合うことが、話し合いのスタートラインになります。

「やめて」と言う前に、家族が準備しておきたいこと

いきなり説得に入らず、「準備」と「家族の足並み」をそろえる

運転の話は、お互いに感情が動きやすいテーマです。
勢いで切り出してしまうと、親も防御的になり、関係がこじれてしまうこともあります。

まずは、家族側の準備を整えるところから始めてみましょう。

1.「本当に危ないのか?」を冷静に見てみる

いきなり「危ない!」と言う前に、一度、親の運転に同乗してみるのがおすすめです。

こんなポイントをチェック

  • 信号や標識に気づくのが遅くなっていないか
  • 一時停止をしない/停止線を大きく越えて止まることが増えていないか
  • 車庫入れや縦列駐車のとき、以前よりモタつきが目立たないか
  • 車にこすったような小さな傷が増えていないか
  • 渋滞時や右折待ちのとき、判断に時間がかかっていないか

「大事故を起こした」というレベルではなくても、
ヒヤッとする小さな場面が増えているかどうかが、ひとつの目安になります。

2.家族で「誰がどう関わるか」を共有しておく

説得役を、いつも同じ人だけが担ってしまうと、
その人が親から「うるさい人」「敵」扱いされてしまうことがあります。

  • きょうだいがいるなら、全員で考えを共有する
  • 実際に話を切り出すのは誰か(子ども本人/配偶者など)
  • 「いつまでに、どういう状態をめざすのか(完全にやめるのか、段階的に減らすのか)」

などを、前もって話し合っておくだけでも、あとから動きやすくなります。

3.「車がなくなったあとの暮らし」をざっくりイメージしておく

親の立場からすると、

「やめろと言うなら、その後どうするんだ?」

が一番の不安です。

  • 地域のバス・コミュニティバス
  • タクシー・福祉タクシー・自治体のタクシー助成
  • 家族や近所の人との送迎の分担
  • ネットスーパーや宅配サービス など

車がなくても生活が続けられそうか、家族側でざっくりイメージを持っておくと、
話し合いのときに「一緒に考えている感じ」が伝わりやすくなります。

親への伝え方:NGワードとOKフレーズ

親を「子ども扱い」「ダメ出し」しない言い方に変える

同じ内容でも、言い方次第で受け取り方は大きく変わります。
ここでは、よくやりがちなNGワードと、代わりに使いたいOKフレーズを紹介します。

1.やりがちなNGワード

NG1:人格ごと否定する言い方

  • 「危ないに決まってるでしょ」
  • 「もう年なんだから、いい加減にやめてよ」
  • 「あんなニュースみたいな事故を起こしたいの?」

→ 親からすると、「これまでの運転歴」や「自分の能力」を全否定されたように感じます。

NG2:一方的に決定を押しつける言い方

  • 「家族で話し合って、もうやめることに決めたから」
  • 「車は売ることにしたから、キーちょうだい」

→ 「自分抜きで勝手に決められた」と感じると、かえって反発を招きやすくなります。

2.OKフレーズの基本は「一緒に考えたい」

切り出し方の例

「お父さんの運転のことで、ずっと気になっていることがあってね」
「責めたいわけじゃなくて、お父さんに長く元気でいてほしいから、一緒に考えてもらえないかな」

「この前、一緒に乗っているときに、ちょっとヒヤッとした場面があったんだ。
私が心配になっちゃって…。お父さんはどう感じてた?」

ポイントは、

  • 「あなたは危ない」ではなく、「私がこう感じた」を主語にする
  • 最初から「やめて」と結論を押しつけず、まずは話を聞かせてもらう姿勢を見せる

ことです。

3.「事実+自分の感情」で伝える

会話例①:最近ヒヤッとする場面が増えたとき

子ども「この前の交差点で、黄色から赤になりかけたとき、ちょっと強めに進んだよね」
親  「そんなこともあったな」
子ども「私は後ろで見ていて、ドキッとしちゃって…。
    もしあの時、歩行者がいたらどうなってたかなって考えちゃったんだ」

子ども「お父さんに危ない目にあってほしくないし、
    誰かを傷つけて、あとから後悔してほしくないんだよね」

「具体的な場面(事実)」→「自分の気持ち」と順番に伝えると、
感情論だけになりにくくなります。

4.「別の移動方法」とセットで話す

ただ「やめて」と言うより、
別の移動方法の提案とセットで話すほうが、親もイメージしやすくなります。

会話例②:病院通いが心配な場合

子ども「病院に行くとき、今は全部車で行ってるよね」
親  「そうだな」
子ども「もし運転を減らすとしたら、
    私が月○回は送迎できると思うんだ。
    それ以外の日は、市のバスとかタクシーチケットも使えるみたいで…」

子ども「いきなり全部やめよう、じゃなくて、
    まずは“通院のときだけ”車以外の手段を試してみない?」

「運転をやめろ」ではなく、
「生活をどう維持するか、一緒に考えたい」というメッセージが伝わると、
話の雰囲気も変わってきます。

車を手放したあとに考えたい移動手段

1つに頼らず、「いくつかを組み合わせる」イメージで

車を手放したとしても、生活は続いていきます。
1つの手段にすべてを任せるのではなく、いくつかを組み合わせるイメージで考えると、現実的になりやすいです。

1.自治体の交通サービス・タクシー助成を確認する

多くの自治体では、高齢者向けの

  • バスの優待乗車証
  • タクシー料金の助成券
  • コミュニティバス・乗合タクシー

などの制度があります。

まずやってみたいこと

  • 親の住んでいる自治体のホームページで
    「高齢者 バス 優待」「高齢者 タクシー 助成」などで検索してみる
  • 分かりにくいときは、市役所の高齢福祉課や地域包括支援センターに電話で聞いてみる

「親が免許返納を考えていて、通院や買い物の移動手段が心配で…」

と伝えると、使える制度を教えてもらえることが多いです。

また、こうした移動サービスとあわせて、
介護保険サービスを使った通院・通所の支援が受けられる場合もあります。

介護保険や要介護認定の流れが気になる場合は、
👉「初めての介護保険・要介護認定の取り方入門
で、全体像を押さえておくと、選択肢がイメージしやすくなります。

2.家族で「送迎できる範囲」を言葉にしておく

毎回の通院や買い物を、すべて家族が送迎するのは現実的に難しいことも多いです。
最初から頑張りすぎると、子ども側がすぐに疲れ切ってしまいます。

例:家族内でルールを決めておく

  • 「月○回までなら、仕事を調整して送迎できる」
  • 「○曜日は買い物の日にして、一緒に車でまとめ買いする」
  • 「遠方のきょうだいも、帰省のときは送迎や片付けを手伝う」

「できること・できないこと」を言葉にして共有しておくと、
親の期待値も、家族の負担感も、お互いに調整しやすくなります。

送迎のために仕事の調整が必要になりそうなときは、
会社への伝え方や使える制度を早めに知っておくと、少し気持ちがラクになります。
👉「仕事と介護の両立が不安なあなたへ|会社への伝え方&介護休業・介護休暇の使い方
では、上司への切り出し方や介護休業・介護休暇の基本をまとめています。

また、

「そもそも遠方に住んでいて、そんなに頻繁には送迎に行けない…」

という方も多いと思います。

遠距離に住みながら親を支えるときの考え方や、「どこまで頑張ればいいのか」の線引きは、
👉「遠距離介護の始め方|月1回しか帰れなくても『できること』と『手放していいこと』
にまとめていますので、あわせて読んでみてください。

3.ネットスーパー・宅配・移動販売を取り入れる

最近は、

  • ネットスーパー・生協などの宅配
  • お弁当の配食サービス
  • 地域によっては移動販売車

など、買い物や食事をサポートするサービスも増えています。

「車がない=買い物ができない」ではなく、
「車に頼りすぎない買い物の仕組み」を作るイメージで考えてみると、選択肢が広がります。

4.中間案として「距離や時間を絞る」という選択も

どうしても今すぐ完全にやめるのが難しい場合は、

  • 「夜間と長距離は運転しない」
  • 「自宅から○km以内だけにする」

など、運転する条件を絞る段階を挟む方法もあります。

そのうえで、徐々に公共交通機関や送迎に切り替えていくと、
親の気持ちにも少しずつ余裕が生まれやすくなります。

どうしても話が進まないときにできること

一人で抱え込まず、「第三者」と「時間」の力も借りる

どれだけ丁寧に話しても、すぐに納得してもらえないこともあります。
そんなときに意識しておきたいポイントをまとめます。

1.一度時間を置く・テーマを変えてみる

運転の話は、親にとってもダメージの大きいテーマです。

  • 会うたびに毎回同じ話をする
  • 電話のたびに「危ないからやめて」と繰り返す

となると、親も話題そのものを避けたい気持ちになってしまいます。

一度感情的になってしまったときは、

  • 「今日はここまでにしよう」と区切る
  • 別の日に、「移動手段をどうするか」から話を始めてみる

など、時間を味方につけることも大切です。

2.専門職や第三者に「ひとこと言ってもらう」

家族の言葉よりも、第三者の一言のほうがスッと届くこともあります。

  • かかりつけ医
  • ケアマネジャー
  • 地域包括支援センターの職員
  • デイサービスのスタッフ など

に事情を伝え、診察や面談の場で

「今の状態だと、運転を控えたほうが安全かもしれませんね」

といった言葉を添えてもらえるよう、相談してみるのも一つの方法です。

3.それでも危険が大きいと感じるとき

  • 何度も軽い事故や物損が起きている
  • 認知症の症状が進み、道に迷うことが増えている
  • 医師からも「運転は控えたほうがよい」と言われているのに続けている

こうした場合には、「本人の意思」だけには任せておけない場面もあります。

  • 鍵を家族が管理する
  • 車を手放すタイミングを具体的に決める
  • その代わり、移動手段や生活の支えをできるだけ厚く用意する

といった、つらい選択肢を考えざるをえないこともあるかもしれません。

そのときも、

「お父さん(お母さん)を責めたいわけじゃなくて、
お父さん(お母さん)の命と、もしものときに巻き込まれる人の命を守りたい」

という軸を、何度でも言葉にして伝えてあげてください。

「完璧にはできなくていい」と、自分にも言ってあげる

子ども側も、自分を責めすぎなくていい

親の運転の問題は、

  • 親のプライド
  • 子どもの不安や罪悪感
  • もしものときの責任問題

など、いろいろなものが重なっているテーマです。

どれだけ考えても、
「これが100点です」という答えを出すのは、正直とてもむずかしい問題でもあります。

どんな選択にも、メリットとデメリットがある

  • 早めに運転をやめてもらえば、事故のリスクは減る
     → その分、外出機会が減って気持ちが落ち込むかもしれない
  • 運転を続ければ、親の自由や楽しみは守られる
     → その分、もしものときの不安やリスクは増えてしまう

どちらを選んでも、「守れるもの」と「手放さざるをえないもの」が出てきます。

今日できる一歩は、「一人で抱え込まないこと」

  • きょうだいや配偶者、信頼できる友人に話を聞いてもらう
  • 地域包括支援センターに、今の状況をそのまま相談してみる
  • 主治医やケアマネジャーに、「家族としての不安」を共有する

状況がすぐに変わらなくても、
「自分一人で背負っていない」と感じられることは、心の支えになります。

おわりに:親の「自由」と「命」を、どちらも大事にするために

親に運転をやめてもらう話は、
単に「免許を返納するかどうか」だけの問題ではありません。

  • 親の自由やプライド
  • 家族みんなの安心
  • 残りの時間をどう過ごしていくか

その全部をどう守っていくか、というテーマでもあります。

完璧な答えはなくても、大切なのは、

  • 親の気持ちをできるだけ想像しながら
  • あなた自身の不安や限界も、ちゃんと大事にしながら
  • 車がなくなっても生活が続いていくように、少しずつ準備していくこと

です。

この記事の中で、

  • 「これは使えそうだな」と感じたフレーズ
  • 「うちでも試してみよう」と思った移動手段のアイデア

が、ひとつでもあれば嬉しいです。

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