「そろそろ運転は危ないんじゃないかな…」
そう感じているのに、親は「まだ大丈夫」「今まで一度も事故なんてしてない」の一点張り。
ニュースで高齢ドライバーの事故を見るたびに、胸がぎゅっと苦しくなる——そんな状態になっていませんか。
結論から言うと、親に運転をやめてもらうときは、
- 「危ないから、すぐやめて」と一方的に説得するのではなく
- 親の気持ち(自由・プライド・生きがい)をできるだけ尊重しながら
- 車がなくなっても生活が回るように、移動手段を一緒に考えていくこと
が、とても大切になります。
この記事では、
- なぜ親は運転をやめたがらないのか
- どんな伝え方なら話がこじれにくいのか
- 車を手放したあと、どんな移動手段・生活の仕組みを作っていけばいいのか
を、順番に整理していきます。
なぜ、親は運転をやめたがらないのか
「車=移動手段」ではなく「自由と自信」の象徴になっている
子どもから見ると、車は「移動するための道具」です。
一方、親にとっての車は、
- 「自分でどこへでも行ける」という自由
- 「まだ元気でいる」という自信
- 長年続けてきた習慣・生活リズム・楽しみ
が詰まった存在になっていることが多いです。
数字だけでは動かない。「気持ち」の問題も大きい
高齢ドライバーの事故のニュースを見て、
- 「一部の人の話でしょ」
- 「自分は慎重に運転しているから大丈夫」
- 「今まで無事故だったんだから、これからも大丈夫なはず」
と感じてしまうのも、ある意味自然なことです。
長年、家族を乗せて走ってきた車であり、
「家族のために働いてきた自分」を支えてくれた存在でもあります。

親の本音はこんなところにあるかもしれない
親御さんから、こんな言葉が出ていませんか。
- 「車がないと病院にも行けないんだよ」
- 「あの店の人と話すのが楽しみなんだ」
- 「免許を返したら、一気に年寄り扱いされる気がする」
この言葉の裏には、
- できるだけ自分で動きたい
- 子どもに迷惑をかけたくない
- “もうできない人”として扱われたくない
という気持ちが隠れていることが多いです。
「危ないからダメ」ではなく「守りたいもの」がある
だからこそ、運転の話をするときは、
「危ないから、やめなさい」ではなく、
「お父さん(お母さん)に、これからも元気でいてほしいから、一緒に考えたい」
というスタンスで向き合うことが、話し合いのスタートラインになります。
「やめて」と言う前に、家族が準備しておきたいこと
いきなり説得に入らず、「準備」と「家族の足並み」をそろえる
運転の話は、お互いに感情が動きやすいテーマです。
勢いで切り出してしまうと、親も防御的になり、関係がこじれてしまうこともあります。
まずは、家族側の準備を整えるところから始めてみましょう。
1.「本当に危ないのか?」を冷静に見てみる

いきなり「危ない!」と言う前に、一度、親の運転に同乗してみるのがおすすめです。
こんなポイントをチェック
- 信号や標識に気づくのが遅くなっていないか
- 一時停止をしない/停止線を大きく越えて止まることが増えていないか
- 車庫入れや縦列駐車のとき、以前よりモタつきが目立たないか
- 車にこすったような小さな傷が増えていないか
- 渋滞時や右折待ちのとき、判断に時間がかかっていないか
「大事故を起こした」というレベルではなくても、
ヒヤッとする小さな場面が増えているかどうかが、ひとつの目安になります。
2.家族で「誰がどう関わるか」を共有しておく
説得役を、いつも同じ人だけが担ってしまうと、
その人が親から「うるさい人」「敵」扱いされてしまうことがあります。
- きょうだいがいるなら、全員で考えを共有する
- 実際に話を切り出すのは誰か(子ども本人/配偶者など)
- 「いつまでに、どういう状態をめざすのか(完全にやめるのか、段階的に減らすのか)」
などを、前もって話し合っておくだけでも、あとから動きやすくなります。
3.「車がなくなったあとの暮らし」をざっくりイメージしておく
親の立場からすると、
「やめろと言うなら、その後どうするんだ?」
が一番の不安です。
- 地域のバス・コミュニティバス
- タクシー・福祉タクシー・自治体のタクシー助成
- 家族や近所の人との送迎の分担
- ネットスーパーや宅配サービス など
車がなくても生活が続けられそうか、家族側でざっくりイメージを持っておくと、
話し合いのときに「一緒に考えている感じ」が伝わりやすくなります。
親への伝え方:NGワードとOKフレーズ
親を「子ども扱い」「ダメ出し」しない言い方に変える
同じ内容でも、言い方次第で受け取り方は大きく変わります。
ここでは、よくやりがちなNGワードと、代わりに使いたいOKフレーズを紹介します。
1.やりがちなNGワード
NG1:人格ごと否定する言い方
- 「危ないに決まってるでしょ」
- 「もう年なんだから、いい加減にやめてよ」
- 「あんなニュースみたいな事故を起こしたいの?」
→ 親からすると、「これまでの運転歴」や「自分の能力」を全否定されたように感じます。
NG2:一方的に決定を押しつける言い方
- 「家族で話し合って、もうやめることに決めたから」
- 「車は売ることにしたから、キーちょうだい」
→ 「自分抜きで勝手に決められた」と感じると、かえって反発を招きやすくなります。
2.OKフレーズの基本は「一緒に考えたい」
切り出し方の例
「お父さんの運転のことで、ずっと気になっていることがあってね」
「責めたいわけじゃなくて、お父さんに長く元気でいてほしいから、一緒に考えてもらえないかな」
「この前、一緒に乗っているときに、ちょっとヒヤッとした場面があったんだ。
私が心配になっちゃって…。お父さんはどう感じてた?」
ポイントは、
- 「あなたは危ない」ではなく、「私がこう感じた」を主語にする
- 最初から「やめて」と結論を押しつけず、まずは話を聞かせてもらう姿勢を見せる
ことです。
3.「事実+自分の感情」で伝える
会話例①:最近ヒヤッとする場面が増えたとき
子ども「この前の交差点で、黄色から赤になりかけたとき、ちょっと強めに進んだよね」
親 「そんなこともあったな」
子ども「私は後ろで見ていて、ドキッとしちゃって…。
もしあの時、歩行者がいたらどうなってたかなって考えちゃったんだ」
子ども「お父さんに危ない目にあってほしくないし、
誰かを傷つけて、あとから後悔してほしくないんだよね」
「具体的な場面(事実)」→「自分の気持ち」と順番に伝えると、
感情論だけになりにくくなります。
4.「別の移動方法」とセットで話す
ただ「やめて」と言うより、
別の移動方法の提案とセットで話すほうが、親もイメージしやすくなります。
会話例②:病院通いが心配な場合
子ども「病院に行くとき、今は全部車で行ってるよね」
親 「そうだな」
子ども「もし運転を減らすとしたら、
私が月○回は送迎できると思うんだ。
それ以外の日は、市のバスとかタクシーチケットも使えるみたいで…」
子ども「いきなり全部やめよう、じゃなくて、
まずは“通院のときだけ”車以外の手段を試してみない?」
「運転をやめろ」ではなく、
「生活をどう維持するか、一緒に考えたい」というメッセージが伝わると、
話の雰囲気も変わってきます。
車を手放したあとに考えたい移動手段
1つに頼らず、「いくつかを組み合わせる」イメージで
車を手放したとしても、生活は続いていきます。
1つの手段にすべてを任せるのではなく、いくつかを組み合わせるイメージで考えると、現実的になりやすいです。
1.自治体の交通サービス・タクシー助成を確認する

多くの自治体では、高齢者向けの
- バスの優待乗車証
- タクシー料金の助成券
- コミュニティバス・乗合タクシー
などの制度があります。
まずやってみたいこと
- 親の住んでいる自治体のホームページで
「高齢者 バス 優待」「高齢者 タクシー 助成」などで検索してみる - 分かりにくいときは、市役所の高齢福祉課や地域包括支援センターに電話で聞いてみる
「親が免許返納を考えていて、通院や買い物の移動手段が心配で…」
と伝えると、使える制度を教えてもらえることが多いです。
また、こうした移動サービスとあわせて、
介護保険サービスを使った通院・通所の支援が受けられる場合もあります。
介護保険や要介護認定の流れが気になる場合は、
👉「初めての介護保険・要介護認定の取り方入門」
で、全体像を押さえておくと、選択肢がイメージしやすくなります。
2.家族で「送迎できる範囲」を言葉にしておく
毎回の通院や買い物を、すべて家族が送迎するのは現実的に難しいことも多いです。
最初から頑張りすぎると、子ども側がすぐに疲れ切ってしまいます。
例:家族内でルールを決めておく
- 「月○回までなら、仕事を調整して送迎できる」
- 「○曜日は買い物の日にして、一緒に車でまとめ買いする」
- 「遠方のきょうだいも、帰省のときは送迎や片付けを手伝う」
「できること・できないこと」を言葉にして共有しておくと、
親の期待値も、家族の負担感も、お互いに調整しやすくなります。
送迎のために仕事の調整が必要になりそうなときは、
会社への伝え方や使える制度を早めに知っておくと、少し気持ちがラクになります。
👉「仕事と介護の両立が不安なあなたへ|会社への伝え方&介護休業・介護休暇の使い方」
では、上司への切り出し方や介護休業・介護休暇の基本をまとめています。
また、
「そもそも遠方に住んでいて、そんなに頻繁には送迎に行けない…」
という方も多いと思います。
遠距離に住みながら親を支えるときの考え方や、「どこまで頑張ればいいのか」の線引きは、
👉「遠距離介護の始め方|月1回しか帰れなくても『できること』と『手放していいこと』」
にまとめていますので、あわせて読んでみてください。
3.ネットスーパー・宅配・移動販売を取り入れる
最近は、
- ネットスーパー・生協などの宅配
- お弁当の配食サービス
- 地域によっては移動販売車
など、買い物や食事をサポートするサービスも増えています。
「車がない=買い物ができない」ではなく、
「車に頼りすぎない買い物の仕組み」を作るイメージで考えてみると、選択肢が広がります。
4.中間案として「距離や時間を絞る」という選択も
どうしても今すぐ完全にやめるのが難しい場合は、
- 「夜間と長距離は運転しない」
- 「自宅から○km以内だけにする」
など、運転する条件を絞る段階を挟む方法もあります。
そのうえで、徐々に公共交通機関や送迎に切り替えていくと、
親の気持ちにも少しずつ余裕が生まれやすくなります。
どうしても話が進まないときにできること

一人で抱え込まず、「第三者」と「時間」の力も借りる
どれだけ丁寧に話しても、すぐに納得してもらえないこともあります。
そんなときに意識しておきたいポイントをまとめます。
1.一度時間を置く・テーマを変えてみる
運転の話は、親にとってもダメージの大きいテーマです。
- 会うたびに毎回同じ話をする
- 電話のたびに「危ないからやめて」と繰り返す
となると、親も話題そのものを避けたい気持ちになってしまいます。
一度感情的になってしまったときは、
- 「今日はここまでにしよう」と区切る
- 別の日に、「移動手段をどうするか」から話を始めてみる
など、時間を味方につけることも大切です。
2.専門職や第三者に「ひとこと言ってもらう」
家族の言葉よりも、第三者の一言のほうがスッと届くこともあります。
- かかりつけ医
- ケアマネジャー
- 地域包括支援センターの職員
- デイサービスのスタッフ など
に事情を伝え、診察や面談の場で
「今の状態だと、運転を控えたほうが安全かもしれませんね」
といった言葉を添えてもらえるよう、相談してみるのも一つの方法です。
3.それでも危険が大きいと感じるとき
- 何度も軽い事故や物損が起きている
- 認知症の症状が進み、道に迷うことが増えている
- 医師からも「運転は控えたほうがよい」と言われているのに続けている
こうした場合には、「本人の意思」だけには任せておけない場面もあります。
- 鍵を家族が管理する
- 車を手放すタイミングを具体的に決める
- その代わり、移動手段や生活の支えをできるだけ厚く用意する
といった、つらい選択肢を考えざるをえないこともあるかもしれません。
そのときも、
「お父さん(お母さん)を責めたいわけじゃなくて、
お父さん(お母さん)の命と、もしものときに巻き込まれる人の命を守りたい」
という軸を、何度でも言葉にして伝えてあげてください。
「完璧にはできなくていい」と、自分にも言ってあげる
子ども側も、自分を責めすぎなくていい
親の運転の問題は、
- 親のプライド
- 子どもの不安や罪悪感
- もしものときの責任問題
など、いろいろなものが重なっているテーマです。
どれだけ考えても、
「これが100点です」という答えを出すのは、正直とてもむずかしい問題でもあります。
どんな選択にも、メリットとデメリットがある
- 早めに運転をやめてもらえば、事故のリスクは減る
→ その分、外出機会が減って気持ちが落ち込むかもしれない - 運転を続ければ、親の自由や楽しみは守られる
→ その分、もしものときの不安やリスクは増えてしまう
どちらを選んでも、「守れるもの」と「手放さざるをえないもの」が出てきます。
今日できる一歩は、「一人で抱え込まないこと」
- きょうだいや配偶者、信頼できる友人に話を聞いてもらう
- 地域包括支援センターに、今の状況をそのまま相談してみる
- 主治医やケアマネジャーに、「家族としての不安」を共有する
状況がすぐに変わらなくても、
「自分一人で背負っていない」と感じられることは、心の支えになります。
おわりに:親の「自由」と「命」を、どちらも大事にするために
親に運転をやめてもらう話は、
単に「免許を返納するかどうか」だけの問題ではありません。
- 親の自由やプライド
- 家族みんなの安心
- 残りの時間をどう過ごしていくか
その全部をどう守っていくか、というテーマでもあります。
完璧な答えはなくても、大切なのは、
- 親の気持ちをできるだけ想像しながら
- あなた自身の不安や限界も、ちゃんと大事にしながら
- 車がなくなっても生活が続いていくように、少しずつ準備していくこと
です。
この記事の中で、
- 「これは使えそうだな」と感じたフレーズ
- 「うちでも試してみよう」と思った移動手段のアイデア
が、ひとつでもあれば嬉しいです。


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