子どものいない夫婦/おひとりさまの相続と終活

自分の終活

「あとをお願いできる人」がいないからこそ、早めに整えておきたいこと

子どものいない夫婦やおひとりさまは、
「自分がいなくなったあと、誰に何を任せるのか」を、少し早めに決めておくことがとても大事です。

日本の相続では、「子どもがいない=全部パートナーにいく/全部国にいく」ではなく、
親・兄弟姉妹・甥姪などが相続人になるケースも多くあります。

さらに、おひとりさまの場合は

  • 葬儀・火葬・納骨の手配
  • 賃貸の退去、公共料金の解約、役所への届出
  • スマホ・サブスク・ネット証券などの解約や精算

といった「死後の事務」を誰に任せるのかまで、考えておく必要があります。

ここからは、

  • 子どものいない夫婦の相続のポイント
  • おひとりさまの相続と、死後の手続きを任せる仕組み
  • 共通して「今からやっておきたい準備」

を順番に整理していきます。

相続の基本ルールをざっくり整理しておく

細かい条文を全部覚える必要はありませんが、
「大まかなルール」を知っておくと、何を準備すれば良いかイメージしやすくなります。

法定相続人って誰のこと?

相続では、「誰が相続人になるか」が民法で決められています。

  • 配偶者(夫・妻)は、かならず相続人
  • 子どもがいない場合は、その代わりに
    • 親(直系尊属)
    • 兄弟姉妹(亡くなっていれば、その子ども=甥・姪)
      などが出てくる

そして、遺言書があれば、原則として遺言の内容が優先されます(ただし、配偶者・子どもの「遺留分」という最低限の取り分は別途あります)。

子どものいない夫婦の相続で気をつけたいこと

相続人の組み合わせ

子どものいない夫婦で、片方が亡くなった場合の相続人は、つぎのようになります。

  1. 亡くなった人の「親」が生きている
    • 相続人:配偶者 + 親(祖父母が生きていれば祖父母も)
  2. 親・祖父母はすでに亡くなっているが、兄弟姉妹がいる
    • 相続人:配偶者 + 兄弟姉妹(兄弟姉妹が亡くなっていれば甥姪)
  3. 親・祖父母・兄弟姉妹・甥姪もいない
    • 相続人:配偶者のみ

法定相続分のイメージは、

  • 配偶者と親 :配偶者 3分の2、親 3分の1
  • 配偶者と兄弟:配偶者 4分の3、兄弟姉妹 4分の1

といった割合が一つの目安になります。

よく起こりがちなトラブル

自宅が「配偶者+義理の親族」の共有になる

たとえば、ご主人名義の自宅があり、子どもがいないケースでご主人が先に亡くなったとします。
ご主人の親が生きていると、自宅の名義は

  • 妻:3分の2
  • 夫の親:3分の1

といった具合の共有になることがあります。

将来、妻が自宅を売却したくなったとき、義両親(さらにその相続人)の同意が必要になり、話が進みにくくなることがあります。

「妻に全部残したかったのに、そうならなかった」というパターンです。

疎遠な兄弟姉妹・甥姪が相続人になり、話し合いが難航する

親がすでに亡くなっている場合、相続人は配偶者と兄弟姉妹(または甥姪)になります。

  • ほとんど交流のない親族が相続人として登場する
  • 遺産の内容や金額について、お互いに不信感が生まれやすい
  • 戸籍・印鑑証明など、手続きに必要な書類集めも負担になる

というような負担やストレスがかかりやすい構造になっています。

子どものいない夫婦が生前にやっておきたいこと

  • 公正証書遺言などで「配偶者に多く(または全部)相続させたい」という意思を、はっきり書いておく
  • 親や兄弟姉妹がどう考えているかを、元気なうちに軽くでも話しておく
  • 自宅の名義をどうするか(共有にするか、名義変更するかなど)を検討しておく

具体的な中身は、税金や遺留分の問題もからんでくるので、最終的には専門家(弁護士・司法書士・税理士など)への相談がおすすめです。

おひとりさまの相続と「死後の手続き」をどうするか

誰が相続人になるのか

配偶者も子どももいない「おひとりさま」の場合、法律上の相続人は主に

  1. 親(亡くなっていれば祖父母)
  2. 兄弟姉妹(亡くなっていれば、その子=甥・姪)

が候補になります。

それもいない場合、最終的には国に帰属することになります。

「ほとんど会っていない甥姪が相続人になる」ことも珍しくありません。
通帳の解約や不動産の名義変更など、かなり大変な手続きを、忙しい世代が担うことになる場合も多いです。

死後事務委任契約という選択肢

おひとりさまの終活で、とくに大切になってくるのが、亡くなったあとの事務作業を誰に任せるかという点です。

そこで使われることが多いのが「死後事務委任契約」です。

  • 信頼できる親族や友人、専門家(司法書士・弁護士など)と契約を結ぶ
  • 「自分が亡くなったあとに、どの業務をどこまでお願いするか」を書面にしておく
  • 公正証書で作るパターンがよく利用される

ここで任せられるのは、たとえば

  • 葬儀・火葬・納骨の手配
  • 役所への届出、年金の停止など各種手続き
  • 賃貸の退去、遺品整理、公共料金・各種契約の解約

といった「事務的な手続き」が中心になります。

財産を誰にどれくらい渡すかという「相続」の部分は、死後事務委任ではカバーできないので、別途、遺言書で決めておく必要があります。

任意後見契約との違いと組み合わせ

よく一緒に名前が出てくるのが、「任意後見契約」です。

  • 任意後見契約
    • 認知症などで判断能力が落ちたときに備えて、財産管理や契約行為などを任せる契約
    • 本人が生きているあいだの支援が中心で、死亡と同時に終わる
  • 死後事務委任契約
    • 亡くなった「後」の手続き(葬儀・納骨・解約など)を任せる契約

おひとりさまの場合、

今〜判断力がしっかりしているうち:自分
判断能力に不安が出てきた後〜亡くなるまで:任意後見人
亡くなった後:死後事務を任された人+遺言の執行者

というように、「バトンリレー」のイメージで考えておくと整理しやすくなります。

今からやっておきたい準備

ここからは、夫婦でもおひとりさまでも共通して役に立つ、
「これだけはやっておきたい」という3つの準備です。

全部を一気にやる必要はなく、「できそうなところから一歩ずつ」で十分です。

財産・契約の「ざっくりリストアップ」

最初は、きっちりした台帳でなくてOKなので、メモ感覚で

  • 銀行口座(どの銀行に口座があるか)
  • 投資(証券口座、NISA・iDeCo など)
  • 生命保険・医療保険
  • クレジットカード
  • 不動産(自宅・実家・土地など)
  • その他:貴金属、コレクション、仮想通貨など

を書き出してみます。

ポイントは、

  • 正確な金額はあと回しでOK(「〇〇銀行に普通預金あり」レベルでも価値あり)
  • リストの保管場所と存在だけでも、家族や信頼できる人に伝えておく
  • 紙かデジタルかは自分が続けやすい形で

「どこから手をつけていいかわからない…」という場合は、
サイト内のこちらの記事も参考になります。

もう少し具体的な書き出し方を知りたい方は、まずは自分の棚卸しから始める
自分の終活|今から備える10の準備【チェックリスト付き】
もあわせて読んでみてください。

デジタル遺品・パスワードの整理

最近とくに増えているのが、スマホやネットサービスが原因のトラブルです。

  • スマホのロックが開けられない
  • サブスクやオンラインサービスの解約ができない
  • ネット銀行やネット証券の存在に、そもそも誰も気づかない

といったことが起きると、たとえ残しているお金が少額でも、
手続きが難航したり、放置されてしまうことがあります。

対策としては、

  • パスワード管理アプリを使い、「マスターパスワード」だけ信頼できる人に伝える
  • 紙の「デジタル遺品リスト」を作り、保管場所を伝えておく
  • 見られたくないものは、生前に整理しておく

などが挙げられます。

より具体的な整理のステップは、親のデジタル遺品整理の記事も参考になります。

親や自分のスマホ・ネット銀行など、具体的な整理の流れは
親の“スマホとネット銀行”、そのままで大丈夫?|親のデジタル遺品の整理と、今からできる備え方
にまとめています。

遺言書と、必要に応じた各種契約

最後は、遺言書をどうするかという話です。

  • 子どものいない夫婦
    • 「できるだけ配偶者に残したい」「自宅だけは守りたい」などの希望があれば、それを遺言に書いておく
    • 自宅、預貯金、投資、保険など、「何を」「誰に」渡すのかを具体的に決めていく
  • おひとりさま
    • 親族・友人・団体・寄付など、「誰に託したいか」を整理して遺言に書いておく
    • お金だけでなく、思い入れのある品物や寄付の希望なども言葉にできる

「いきなり遺言はハードルが高い…」と感じる場合は、
まずエンディングノートで気持ちや情報を整理してから考えても大丈夫です。

エンディングノートの役割や書く内容は
エンディングノートとは?目的・書く内容・遺言との違いをやさしく解説
で紹介しています。

判断能力が心配な場合は、

  • 判断力が落ちたときのための「任意後見契約」
  • 亡くなったあとの手続きを任せる「死後事務委任契約」

も一緒に検討しておくと、「生きているあいだ」から「亡くなったあと」までを、通しでカバーすることができます。

よくある不安Q&A(子どものいない夫婦/おひとりさま編)

「子どもがいないから、全部配偶者にいきますよね?」

親や兄弟姉妹がいる場合、自動的にすべて配偶者に渡るわけではありません。

  • 親がいれば…配偶者+親
  • 親が亡くなっていて兄弟姉妹がいれば…配偶者+兄弟姉妹

が相続人になります。

「配偶者に多く(またはすべて)渡したい」と考えるなら、
遺言書で意思表示しておくことがとても大切です。

「おひとりさまで身寄りも少ないです。何から始めればいいですか?」

順番としては、

  1. 自分の財産・契約・パスワードの一覧を作る
  2. 相続人になりそうな親族や、信頼できる友人・専門家を整理する
  3. 財産の引き継ぎは遺言書で決める
  4. 死後の手続きは「死後事務委任契約」でお願いする人を決める
  5. 判断能力の低下が心配なら「任意後見契約」も検討する

という流れがイメージしやすいと思います。

「たいした財産もないのに、準備する意味はありますか?」

金額の多い少ないに関わらず、

  • 賃貸の退去や荷物の整理
  • 通帳や保険の確認・解約
  • スマホ・サブスク・公共料金の整理

などの手続きには、時間と手間がかかります。

「どこに何があるか分からない」という状態そのものが、
残された人にとっては大きな負担になるので、最低限の整理とメモだけでも、やっておく価値があります。

まとめ

子どものいない夫婦やおひとりさまの終活・相続は、

  • 「誰に」「何を」「どこまで」お願いしたいのか
  • 自分がいなくなったあと、残された人が困らないために何を残すか

を決めていく作業です。

完璧にやろうとしなくて大丈夫です。

  • 財産や契約のざっくりリストを作る
  • デジタル情報を整理し、最低限の手がかりを残す
  • 遺言書や、必要に応じて任意後見契約・死後事務委任契約を検討する

といったところから、できるペースで少しずつ整えていきましょう。

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