親のスマホやネット銀行、サブスクなどの「デジタルなもの」は、
一見わかりづらく、つい後回しにしてしまいがちです。
でも実は、
親が突然倒れたり、亡くなったあとに一番困りやすいのが、このデジタルの部分です。
- スマホのロックが分からない
- ネット銀行やポイントがあるかどうかも分からない
- サブスクの引き落としが続いてしまう
こうした状態になる前に、
「全部教えて」ではなく
「家族が最低限困らないように、少しだけ情報を共有しておく」
ことがとても大切です。
この記事では、
- 親のデジタル遺品にはどんなものがあるのか
- 家族として、どこまで把握しておけば安心か
- 今日からできる小さな一歩
を、できるだけやさしく整理していきます。
※本記事は一般的な情報をまとめたものであり、具体的な手続きは各サービスや専門家への確認をおすすめします。
親の「デジタル遺品」とは?まずは全体像を知る

「デジタル遺品」という言葉は少し大げさに聞こえるかもしれませんが、内容はとても身近なものです。
ざっくり言うと、
パソコンやスマホ、インターネット上にある「お金」「契約」「思い出」のこと
を指します。
たとえば、次のようなものです。
- スマホ・パソコン・タブレット本体
- メールアドレス(プロバイダメール・Gmail・Yahoo!メール など)
- ネット銀行・ネット証券・ネット保険
- クレジットカード、コード決済(PayPay など)、キャッシュレスアプリ
- サブスク・月額サービス
(動画配信、音楽配信、新聞・雑誌のデジタル版、オンラインサービス など) - ポイント・マイル(楽天ポイント、Tポイント、各社マイル など)
- SNS・ブログ・オンラインストレージ
- スマホやクラウドに保存されている写真・動画
親世代は「ネットはあまり使っていないよ」と言いがちですが、
実際には、スマホだけで銀行や支払いを済ませているケースも増えてきています。
なぜ“今から”備える必要があるのか
「まだ元気だし、そのうちでいいかな」と思ってしまうのが自然です。
ただ、デジタルなものには次のような特徴があります。
- 家族が「存在に気づきにくい」
- ロックやパスワードがあり、簡単には開けない
- 放置すると、お金や気持ちの面で後悔が残りやすい
1. 紙の郵便が届かず、家族が気づけない
- 通帳や請求書が紙で届かない
- メールやアプリの通知だけで完結してしまう
その結果、
- ネット銀行の口座があることに誰も気づかなかった
- サブスクの引き落としが長く続いてしまった
といったことが起きやすくなります。
2. スマホやパソコンのロックが“見えない壁”になる
スマホやパソコンは、パスワードや顔認証などでしっかり守られています。
たとえ家族であっても、契約や法律のルール上、勝手にロックを解除したり中身をのぞくことには注意が必要です。
「何かあったらスマホを見ればわかるだろう」
と考えていても、実際にはどうにもできない場合があるということです。
3. 放置すると「お金」も「思い出」も取り戻せないことがある
- 誰にも気づかれないネット銀行にお金が残ったまま
- 親名義のサブスクがずっと支払われている
- 大切な写真や動画が、誰にも見られないまま消えてしまう
こうしたことは、後から家族の心にモヤモヤを残してしまいます。
だからこそ、
「細かいところまで完全に把握する」ではなく、
「家族が最低限困らない状態」を早めにつくっておく
という考え方が大切です。
STEP1:親のデジタル資産を「ざっくり」でいいので洗い出す
いきなりすべてを完璧に把握しようとすると、親も子も負担が大きくなってしまいます。
まずは、
どんな種類のサービスを使っているかだけ、ざっくり把握する
ことから始めてみましょう。

洗い出しのチェックリスト例
- 📱 端末
- スマホ(機種・キャリア)
- パソコン(Windows / Mac など)
- タブレット
- 💌 連絡手段
- メールアドレス
(プロバイダメール・Gmail・Yahoo!メール など) - メッセージアプリ(LINE など)
- メールアドレス
- 💰 お金まわり
- ネット銀行(ネット専業銀行・銀行アプリ)
- ネット証券・FX・その他の投資サービス
- クレジットカード(どの会社か)
- キャッシュレス・コード決済(PayPay など)
- 📺 サブスク・月額サービス
- 動画配信(Netflix など)
- 音楽配信(Spotify など)
- 新聞・雑誌のデジタル版
- その他の定額サービス
- 🎁 ポイント・マイル
- 楽天ポイント、Tポイント、Ponta など
- 航空会社のマイル
- 📷 写真・思い出
- 写真の保存場所(スマホ本体/SDカード/クラウド)
- アルバムアプリの有無
親への聞き方のコツ
ここで意識したいのは、
「全部見せて」ではなく
「もしものときに困らないように、サービス名だけ教えてほしい」
というスタンスです。
- 「スマホ見てもいい?」ではなく
- 「銀行のアプリって、どこのを使ってる?」
- 「毎月払ってる動画とか音楽のサービスってある?」
といった聞き方だと、親も答えやすくなります。
STEP2:「何を知っておくか」と「どこまで踏み込まないか」を決める
デジタル遺品の難しさは、プライバシーと安全性のバランスです。
家族だからといって、すべてのIDやパスワードを事前に共有すべき、というわけではありません。
一方で、何も知らないままだと、万一のときに本当に困ってしまいます。
そこで、
- 「家族として、最低限知っておきたいこと」
- 「あえて踏み込まない領域」
を分けて考えてみると整理しやすくなります。
家族が最低限知っておきたいこと
- どこのサービスを使っているか(サービス名・会社名)
- 情報の保管方法
- 紙のノートにまとめている
- エンディングノートに書いてある
- 引き出しのファイルに一覧が入っている など
- パスワード管理の方針
- 紙に書いている
- パスワード管理アプリを使っている
- そのマスターパスワードだけは、別の方法で共有する など
「残高」や「取引内容」などの細かい中身まで知る必要はなく、
“どこに問い合わせれば良いか”が分かる状態を目指すイメージです。
あえて“踏み込まない”領域も決めておく
- SNSの中身
- メールの内容
- 過去のやりとり など
こういった部分は、親のプライバシーの領域でもあります。
「アカウントがあることだけ分かればよくて、中身までは見ない」
という線引きを、親子でゆるやかに共有できると、お互い安心しやすくなります。
STEP3:万一のときに困らないよう「保管方法」を決める
情報を洗い出したら、次はどのように保管しておくかを考えます。
1. 紙の一覧にして、保管場所を決める

一番分かりやすいのは、紙にまとめる方法です。
- 使っているサービス名
- おおまかな用途(例:給料が入る口座/年金の受け取り口座/動画のサブスク など)
- 問い合わせ窓口(銀行名・会社名 など)
といった情報を、一覧にしておきます。
パスワードについては、
- そのまま全部書くと紛失時のリスクが高い
- 「ヒントだけ」「一部だけ」にする
- パスワードだけ別紙にする
など、安全性と使いやすさのバランスを取りながら決めていきましょう。
一覧を入れておく場所の例:
- 金庫
- 大事な書類をまとめているファイル
- エンディングノートの後ろのページ など
2. エンディングノートに「デジタル用のページ」を足す
すでにエンディングノートを使っている場合は、
「デジタル資産用のページ」を1〜2枚追加するイメージがおすすめです。
- ネット銀行・証券
- サブスク・月額サービス
- ポイント・マイル
- 写真・データの保管場所
などの項目を作り、思い出したときに書き足せるようにしておくと、親にとっても負担が少なくなります。
エンディングノート自体の選び方や書き方については、
『エンディングノートとは?親と始めるやさしい終活入門』も参考になります。
3. デジタル管理の場合は、「最後の鍵」の扱いを決めておく
パスワード管理アプリなどを利用している場合は、
- ID・パスワードはすべてアプリに任せる
- その代わり、アプリを開くための「マスターパスワード」だけを
- 封筒に入れて金庫へ
- 信頼できる家族や専門家に預ける
など、「最後の1本の鍵」をどう扱うかがポイントになります。
ケース別Q&A
Q1. 親が「スマホは見せたくない」と言うとき
スマホの中身を見せてもらう必要はありません。
中身ではなく「どんなサービスを使っているか」だけを聞くようにしてみましょう。
- 「スマホ見てもいい?」ではなく
- 「銀行のアプリって、どこのを使ってる?」
- 「毎月払ってる動画のサービスってある?」
といった聞き方に変えるだけでも、親の受け止め方はだいぶ変わります。
Q2. すでに物忘れが多く、本人もよく覚えていない場合
このような場合は、親本人の記憶だけに頼らず、
手がかりになりそうなものから少しずつ探していくことになります。
- 通帳やクレジットカード、紙の請求書が残っていないか確認する
- メールの件名をざっと眺めて、「〇〇銀行」「〇〇カード」などの名前を探す
- スマホのホーム画面に並んでいるアプリのアイコンをチェックする
といった方法で、「どの会社とつながっているのか」を少しずつ洗い出していきましょう。
Q3. 親がネット銀行や投資をたくさんしていて不安
この場合も、最初から残高や取引内容まで細かく把握しようとする必要はありません。
- どの金融機関を使っているか(銀行名・証券会社名 など)
- それぞれが「アプリなのか」「ブラウザでログインするタイプか」
- 通帳やキャッシュカードがあるかどうか
といった情報を一覧にしておくだけでも、
もしものときに問い合わせ先が分かりやすくなります。
Q4. 親が突然亡くなり、スマホのロックもネット銀行も開けない場合
とてもつらく、気が動転してしまう場面だと思います。
ただ、スマホやネットサービスのロック解除については、
契約や法律のルールに沿って進める必要があり、
「家族だから開けられる」とは限りません。
- 携帯電話会社や端末メーカーのサポート窓口
- 銀行やカード会社などのコールセンター
に相談し、必要な書類(死亡診断書や戸籍など)を確認しながら、
正式な手続きを進めていくことになります。
だからこそ、
「そのときになったら考えよう」ではなく、
元気なうちに“最低限の情報共有”をしておくことが、大きな安心につながります。
今日からできる「小さな一歩」3つ

ここまで読んで、「大事なのは分かるけれど、何から手をつければいいか分からない」と感じたかもしれません。
そこで、今日からできることを3つに絞ってみます。
1. 自分の中で「知りたいライン」を決める
- すべてのパスワードを知る必要はない
- 「使っているサービス名」と「一覧の保管場所」だけ分かればOK
というように、
自分なりの“ここまで分かれば安心”というラインを決めておくと、親にも伝えやすくなります。
2. 親に“重くない一言”で切り出してみる
たとえば、こんな言い方も一つの例です。
「最近、ネットで払うもの増えたでしょ?
もしもの時に分からなくなったら困るから、
使ってる銀行とかサービスの“名前だけ”メモに残しておいてもいい?」
「全部教えて」ではなく、
「困らないようにメモだけ作らせてほしい」という形にすると、話を受け止めてもらいやすくなります。
3. 自分のデジタル資産も、少しだけ書き出してみる
親のことを考えるのは、どうしても気持ちが重くなりがちです。
そんなときは、
「自分の分も整理しておこう」
という意識で、まずは自分のデジタル資産を書き出してみるのも一つの方法です。
- 自分のスマホ・ネット銀行・サブスク
- よく使うポイント・マイル
などをメモにしてみると、「こんなにあったんだ」と気づきが生まれ、
その流れで親への声かけもしやすくなります。
自分の終活全体を整理したいときは、
『自分の終活|今から備える10の準備【チェックリスト付き】』もあわせて読んでみてください。
親の“スマホとネット銀行”は、やさしい「メモ」で守れる
親のデジタル資産は、紙の通帳や郵便に比べて家族が気づきにくく、
一度分からなくなってしまうと、取り戻すのが難しい世界です。
- 家族が存在を知らないままのお金
- 解約できないサブスク
- 誰にも見られないままの写真や動画
こうしたものを少しでも減らすために、
- 使っているサービスの「名前の一覧」
- その一覧やエンディングノートの「保管場所」
を、今から少しずつ共有しておくことが、家族みんなの安心につながります。
「全部教えて」ではなく、
「最低限困らないように、一緒にメモを作っておこう」
そんな声かけから、親にも自分にもやさしいデジタルの備えを始めてみてください。


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