親のお金を触るようになって、不安になっているあなたへ
親の通帳を預かったり、病院の支払いを立て替えたり。
親のお金を自分が管理する場面が増えてくると、
「これって勝手に使っていることにならないかな」
「きょうだいから疑われたりしないかな」
「もし法律的にアウトだったらどうしよう」
と、ふと不安になる瞬間が出てきます。
結論から言うと、親のお金を「家族だから」と感覚だけで扱うのは、リスクが大きいです。
とはいえ、一から法律の本を読み込む必要はありません。
- 「親のお金はあくまで親のもの」という基本スタンスを持つこと
- 家族内でのルールと、かんたんな記録のしかたを決めておくこと
- 親の判断力が落ちてきたら、法的なしくみや専門家につなげる流れを知っておくこと
この3つさえ押さえておけば、あとから「使い込みだ」と疑われるリスクを減らしつつ、自分自身の心の負担も軽くできます。
なお、この記事は「今まさに親のお金を触り始めた家族」の目線で書いています。
親が元気なうちからの整理全体を知りたいときは、先に
👉 親が元気なうちにしておくべきお金と手続きのこと
を読んでおくと、より全体像がつかみやすくなります。
親のお金を管理するときの基本スタンス
親のお金は「預かりもの」。自分のお金とは混ぜない
まず一番大事なのは、「親のお金は親のもの。自分は“預かっているだけ”」という意識を持つことです。
家族であっても、親のお金は自由に使っていいものではありません。
介護や通院の付き添いを一手に引き受けていると、自然とお金の管理も任されがちになります。
その結果、
- 「なんで通帳を預かってるの?」
- 「最近、残高が減っているけど、何に使ったの?」
と、きょうだいから聞かれてドキッとしたり、
親が亡くなったあとに「この引き出しは何?」と説明を求められることもあります。
自分としては当然の支出だとしても、第三者から見ると「よく分からないお金の動き」に見えてしまうと、それだけで疑いの目が向けられやすくなってしまいます。
ありがちな“グレーゾーン”の例

たとえば、次のようなケースはグレーになりやすいところです。
- 自分のクレジットカードで親のものと自分のものを一緒に買い、あとで親の口座からまとめて引き落とす
- 親名義の通帳から、自分の生活費も一緒に下ろしてしまう
- レシートやメモが残っておらず、何に使ったのか自分でも細かく説明できない
どれも「悪気があってやったこと」ではありません。
でも、親のお金と自分のお金の境界線があいまいな状態になっていると、あとから説明がしづらくなります。
ここから始める「3つの意識」
難しく考えすぎなくて大丈夫です。
まずは、次の3つだけを意識してみてください。
- 親のお金は、親のためだけに使う
- 自分のお金と混ぜない(口座・財布・クレジットカードをできるだけ分ける)
- 後からきょうだいに説明できるように、使い道をざっくり残しておく
この「ゆるいけれど大事な3ルール」を決めておくだけでも、
将来のトラブルや自分のモヤモヤはかなり軽くなります。
親のお金を管理するときの「実務ルール」5つ
ここからは、もう少し具体的な話です。
法律の本を読まなくても、家族のあいだで決めておくだけでトラブルを減らせる“実務ルール”を5つに絞って紹介します。
1.何をどこまで任されているかを、家族で共有しておく
まずは、自分が
- 通帳やキャッシュカードを預かっているのか
- ネット銀行のログイン情報まで管理しているのか
- 毎月の支払い(施設費・医療費・公共料金など)のどこまでを担当しているのか
といった「守備範囲」を、きょうだいに一度共有しておくと安心です。
たとえば、家族LINEでこんなふうに一言書いておくだけでも違います。
「通帳とキャッシュカードは、今私が預かっています。
毎月の施設費と病院代は一旦立て替えて、あとからお母さんの口座から精算しているよ。」
このひとことがあるかどうかで、「ちゃんと共有されている感」は大きく変わります。
2.買い物のときは「親の分」と「自分の分」を頭の中で分ける
親と一緒にスーパーやドラッグストアへ行くと、
ついでに自分のものも一緒に買うことがありますよね。
- 食料品売り場で、親の食材と自分の夕飯の食材を一緒にかごへ入れる
- 薬局で、親のおむつや薬と、自分の化粧品を一度に会計する
そのときに意識したいのが、「どれが親の分で、どれが自分の分か」を、その場で分けておくことです。
やり方は、難しく考えなくて大丈夫です。
- レシートにペンで丸をつけて、「親」「自分」とメモしておく
- 家計簿アプリを使っているなら、親の分だけ別カテゴリで入力しておく
「どれが親のお金で払った分か」が自分にも分かるようになっていれば、十分です。
3.立て替えたお金は、その場でメモしておく

通院のタクシー代や診察料など、「とりあえず自分が払っておいて、あとで親の口座から戻す」場面も多いはずです。
このときは、
- いつ
- いくら
- 何のために使ったお金か
を、その場でスマホやノートにメモしておくのがおすすめです。
4/10 内科クリニック 3,000円+タクシー 1,200円(往復)=4,200円
→ 4/15に親口座から4,200円を引き出して精算
このくらいのメモでも、数ヶ月後に見返したとき、
自分にとってもきょうだいにとっても、だいぶ安心材料になります。
余裕があれば、通帳の該当ページの写真や、メモのスクリーンショットを家族LINEに共有しておくと、透明性はさらに高くなります。
4.通帳やカードを預かるときは、「預かり方」も一緒に決める
親の判断力がしっかりしているうちに、通帳やキャッシュカードをどう預かるかも話し合っておけると理想的です。
たとえば、
- 通帳は親の引き出しに置いたままにして、必要なときだけ一緒に銀行へ行く
- カードはこちらが預かる代わりに、使ったときは「いつ・いくら・何のため」をノートに書いて親に見せる
- 毎月の生活費だけまとめて現金でもらい、それ以外の貯金部分は触らない
など、「うちのやり方」を決めておきます。
大事なのは、
- 親本人が納得していること
- きょうだいにも方針を共有していること
この2つです。
「こっそり預かる」のではなく、「みんなの前で預かる」イメージにしておくと、あとからの誤解を減らせます。
5.記録は“完璧な家計簿”より、“続けられるメモ”で十分
「そこまで細かく管理できる気がしない…」と思ったかもしれません。
でも、完璧な家計簿をつける必要はありません。
ノート1冊を「お金ノート」と決めて、
- 日付
- 金額
- だいたいの用途(病院・薬・タクシー・施設費など)
- 精算したかどうか(親口座から/現金でもらった等)
だけを、走り書きで残しておくだけでも十分役に立ちます。
「あとから自分でも説明できるレベル」
「きょうだいに見せても納得してもらえるレベル」
この2つさえ満たしていれば、「ざっくりメモ」でOKです。
肩の力を抜いて、続けやすい形を探してみてください。
成年後見・任意後見などの「法的なしくみ」をざっくり知っておく

親の判断力が少しずつ落ちてきたり、財産の金額が大きかったり、不動産が絡んできたりすると、家族だけでお金の管理を続けるのは限界が出てきます。
そんなときのために、日本には
- 成年後見制度
- 任意後見契約
- 家族信託
など、いくつかの法的な仕組みがあります。
ここでは、細かな条文ではなく、家族として「こういうものがある」と知っておきたいレベルに絞って整理します。
成年後見制度:すでに判断力が落ちている人を守るしくみ
成年後見制度は、すでに認知症などで判断能力が十分でない人を、法的にサポートするしくみです。
- 家庭裁判所に申し立てをして
- 後見人(家族や専門職)が選ばれ
- 財産管理や契約行為を、その後見人が代わりに行う
という流れになります。
「家族が全部を背負う」のではなく、裁判所の監督のもとでお金を管理する体制になるので、透明性と安全性が高いのが特徴です。
任意後見契約:「元気なうち」に将来のことを決めておくしくみ
任意後見契約は、まだ判断力がしっかりしている段階で、「もし判断力が落ちたときのこと」を前もって決めておくための制度です。
- 親本人が「この人に任せたい」という相手を選び
- 公証役場で「どこまで何を任せるか」を契約にしておく
ことで、将来、親の判断力が落ちたときにその契約内容が効いてきます。
「親が元気なうちに、お金の話を前向きにする」場面では、
先ほどの 親が元気なうちにしておくべきお金と手続きのこと と合わせて、任意後見の話題も少し触れておくと、将来の安心感が違ってきます。
家族信託:財産の名義を家族に託して、柔軟に管理するしくみ
家族信託は少し専門的ですが、イメージとしては
「親が、自分の財産の管理と使い道を、あらかじめ家族に託しておく契約」
のようなものです。
- 誰が管理するか(受託者)
- どの財産を託すか
- 将来、その財産をどう使っていくか
などを、ある程度柔軟に決められるのが特徴です。
特に、不動産やまとまった預貯金がある場合、
認知症リスクや相続のことまで視野に入れておきたいご家庭では、選択肢のひとつになります。
ただし、ここは個別事情による部分が大きいので、「自分たちだけで判断しない」ことが大切です。
「専門家に相談したほうがいい」サインとは?
ここまで読んで、「うちはもう家族だけでは限界かも…」と感じたかもしれません。
そんなときの目安として、専門家に相談を検討したいサインを3つ挙げておきます。
サイン1:親の判断力がはっきり落ちてきた
- 同じ話を何度も繰り返す
- お金の話になると、混乱して怒り出してしまう
- 自分の財産の全体像を、ほとんど把握できていない
こうした様子が続いている場合、新しい契約や高額な支払いを家族だけで決めるのは、トラブルの元になりやすいです。
成年後見制度や任意後見契約なども視野に入れつつ、
一度、専門家に「今の状態だとどう考えたらいいか」を相談してみると安心です。
サイン2:動かす金額が大きい・不動産が絡む
- 実家の売却や賃貸を検討している
- まとまった預貯金を動かす必要がある
- 親名義の不動産や株式、投資商品がある
こういった場合は、税金や相続との関係も絡んでくるため、家族だけで決めてしまうと後悔につながることがあります。
親が亡くなったあとに必要な手続きや期限感を知っておきたいときは、
👉 親が亡くなったらする手続き一覧と期限|死亡後1年間のチェックリスト
も、あわせて目を通しておくと全体像がつかみやすくなります。
サイン3:きょうだいのあいだで「なんとなく不信感」が芽生えている
はっきり言葉には出ていなくても、
- 「本当にその使い方でいいのかな」
- 「自分だけ知らされていない気がする」
- 「通帳を一人だけが持っているのが、正直ちょっと怖い」
といったモヤモヤが家族の中に出てきているなら、
第三者に間に入ってもらったほうが、結果的に平和的です。
相談先の例
- 市区町村の窓口(高齢者支援・地域包括支援センターなど)
- 社会福祉協議会
- 相続や高齢者支援に詳しい弁護士・司法書士・税理士・行政書士 など
「どこに相談したらいいか分からない」という段階では、
サイト内の 相談先ガイド を見ながら、
今の状況に一番近い窓口を探してみるのもおすすめです。
今日のまとめと、「これだけは決めておきたい3つのこと」

親のお金を管理するとき、一番大切なのは
「自分も親も、きょうだいも、できるだけモヤモヤを抱え込まないこと」
です。
そのために、この記事では
- 親のお金はあくまで「預かりもの」として扱うこと
- 家族でルールと記録のしかたを決めておくこと
- 限界を感じたら、専門家や制度にバトンを渡すこと
の3つを、何度も繰り返してお伝えしてきました。
最後に、今日できる“小さな一歩”をいくつか挙げておきます。
- 今、自分がどこまで親のお金に関わっているかを、紙やスマホに書き出してみる
- きょうだいに「今はこんな感じでお金を管理しているよ」と、ひとこと共有してみる
- 立て替え分を書き留める「お金ノート」を1冊用意してみる
どれか一つでもやってみることで、
「なんとなく不安…」という気持ちから、「少し見通しが立ってきたかも」に近づけるはずです。
親のお金を扱うのは、プレッシャーも大きい役割です。
だからこそ、あなたが一人で抱え込まなくていいように、
この記事が少しでもお守り代わりになればうれしいです。


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